段ボールから取り出した、お茶碗に手をかけた時、インターホンが鳴る。   

「はぁい」 

ガチャリと扉を開けた瞬間に、私の心は、あっという間に恐怖に支配され、骨の髄まで黒く染まり、呼吸は浅くなる。

「こんにちは。今日隣に越してきた、杉原美穂子です。これ、良かったら、お子さんにどうぞ」

美穂子は、微笑みながら、いつも一つに束ねている長い黒髪の結び目に指をかけて、サラリと解いた。

「何となく、また仲良くできそうで嬉しいわ」

美穂子のいつもの真っ白な歯を見つめれば、黒い感情が、骨の奥底からミシミシと音を立てて、湧き出してくる。ドクドクと鼓動がはやくなり、目の前の美穂子の白いワンピースは、目には見えない何かによって、白から黒へと染まっていく。

欲望のままに。絶望の色へと。
理由は、曖昧なままに染め上げられていく。

美穂子から手渡された、紙袋の中からは、真っ白な子供用のスウェットが見える。

何故だか、その白いスウェットが、真っ赤に染まるような気がした。