「里奈ー、この段ボール、寝室に持っていくなー?」
「うん、運んだら、中開けて、あなたのスーツをクローゼットにかけていってもらえない?」
「了解」
悠作の声に、振り返りながら、私は『食器類』と記載された段ボール箱を開封していく。
「ママー、僕の新しいお部屋って、窓際のお部屋で合ってる?」
「えぇ、教科書とお洋服の入った段ボールをパパが運んでくれてるから、開けて出してくれる?」
「はぁい」
パタパタと駆けていく小さな背中を見ながら、私は、ようやく安堵していた。
あの後、悠作に涙ながらに訴えて、悠作に異動届を提出してもらい、私達は、隣町へと引っ越した。悠聖の度重なる転校は可哀想だったが、これ以上、美穂子に監視されているような、美穂子の目が常に付き纏う、あの家に住みたくなかった。
そして、私は何よりも、家族を守るために美穂子から、遠く離れたかった。
引っ越しの際、トラウマから、今回は、一戸建てではなくて、アパートの一室を借り上げた。
前の家よりも平米は狭いが、家族が安住できるならそれでいい。
今日から家族三人、また一から始めよう。新しい場所、そして、新しい家で。