『今更、もう離れることなど出来ないだろう』
「やめてくれっ!」
タナトスの声を聞いていると、頭が、おかしくなりそうだ。このままじゃ、僕は、本気で消えて欲しいなんて思ってもいない人達まで、自分の不用意な一言によってタナトスに消されてしまう。
どうしよう。
どうしたらいいんだ。
やっぱり、コイツは死神だ!
死神は、死神だ!
危険すぎる。
とにかく、タナトスから離れないとーーーーどうやったら、タナトスから離れられる?
僕は、記憶の糸を片っ端から、引き摺り出してくる。
(あ……そう言えば……)
僕はふと、タナトスと契約を交わした時の事を思い出す。
僕は、タナトスの鎌に掴みかかり、タナトスから鎌を取り上げると、僕とタナトスの影の境界線に思い切り振り下ろした。
ビリッと衣類が千切れるような音がして、体がふわりと軽くなる。
(離れたっ!)
僕は、玄関へ走り、スニーカーを突っ掛けて、夜の闇へとひたすらに走っていく。
「はぁっ……はっ……」
もう何処でもいい。
タナトスから離れたい。
もっとはやく。もっと遠くへ。
ーーーーどの位走っただろうか。
無我夢中でたどり着いた、見知らぬ駅の改札を線路の脇から通り抜けた。電光掲示板を見上げれば、今から、快速列車が通過した後に、4分遅れで、普通列車が到着する。
プォーンという警笛と共に、快速列車のライトが、眩しい程にこちらを照らしながら走ってくる。