「生と……え?」
「あれぇ?自覚なし?君は、少し前に死んでしまったんだよ」
 男の子の軽い笑い声は、鈴のような音がした。
「死? 私が?」
「そうだよ。ナイフでぐさーって、やられたの」
「ナイフ……」
 口にした瞬間、私の頭の中には灰色に曇ったビジョンが流れ込んできた。
 顔は帽子で隠れており、夏なのにダウンジャケットを着た奇妙な男が、迷いもなく私のお腹に突き立てた。
 実際に今刺されているわけではないのだけれど、私の全身に痛みが走った。
 さらに、どっどっどっと、心臓が暴れる音が不気味な程体内で暴れ回っているのを感じて、私は立っているのが辛くなった。
「大丈夫? ちょっと刺激が強すぎたかな」
「今のは、何なの?」
「ん? 君が死ぬ瞬間だよ。どう、思い出したかな」
 私は「思い出した」と言う前に、全身の怠さに耐えきれずその場にしゃがみこんだ。
「あーそっか。ごめんね。自分が死ぬビジョンって、見ると魂に負荷がかかっちゃうみたいなんだ。すっかり忘れてたよ」
 そう言うなり、男の子はパチンと指を鳴らした。その瞬間、すっと波が引くように、私の怠さがあっという間に消えた。
「これで、もう大丈夫だよ」
 ありがとうとは、何となく私は言いづらかった。
「そうそう。自己紹介がまだだったね」
 男の子は、私の前にしゃがみ込み、私の顔を覗き込んでくる。
「僕はね、冥府の番人。名前は、まだないよ。よろしくね。廻野実輪さん」