8月31日。
 夏の太陽が、刃のように私たちに攻撃してくる午後2時過ぎに、私の命は突然終わらせられた。
 大好きな彼と待ち合わせをしていた駅で、見知らぬ人に刺されてしまったから。
「どうして自分が刺されたのか」
 そんなことを考えている余裕など、私には少しも与えられなかった。
 目の前の景色は、容赦なく消されていく。
 はっきりと、聞こえていたはずの音も、徐々に薄れていく。
 身体中の感覚が奪われていく。
 これが、死ぬことなのだとすぐに悟ることができたのは、肉体に刻み込まれている生命としての本能のおかげなのかもしれない。
 そんな中で真っ先に、私が思ったこと。

(彼に会いたい……)

 夏の始まりに付き合い始めた、最初の彼氏。
 ずっと憧れていたけれど、自分なんかでは釣り合わないと影から見ているだけしかできなかった人。
 だから、彼から呼び出されて「付き合ってください」と言われた時は「死んでもいい」と本気で思ったのだ。
 その時の気持ちは、決して嘘ではない。
 けれど、今こうして死に堕ちていく中で、後悔だけが募る。欲望だけが膨れがある。
 あと1回でいいから触れたい、名前を呼ばれたい、好きだと言われたい。
 そのたった1回が、どれ程難しいことなのかを知った時はもう遅く、私はそのまま意識を手放した。
 こうして、私の、私としての人生は終わりを迎える……はずだった。