先日の舞踏会で右胸と左手首の『同情』の花が落ちて以降、『同情』の花が咲かなくなった。
リンファスが、花が減って元気をなくしていると、ケイトは良いことじゃないか、と慰めてくれた。

「どうして? 花乙女は花が沢山着いた方が良いんでしょう?」

リンファスの疑問に、ケイトは首を振って答えてくれた。

「花に込められた気持ちこそが大事なんだよ。
『同情』の裏側にある気持ちは『蔑み』だろ? それより『友情』の花の方がうんと良い。
対等な関係であることを、贈り主が認めたんだからね」

そうなんだ……。よく分からないけど、気持ちが変わって花の種類が変わるなら、その方が良いのか。
でもやはり、他の乙女たちみたいに花をいっぱい身に着けていたいけど……。

「リンファスも少しずつ友達が増えて、花が増える。その中から『愛情』の花を咲かせてくれる人を見つけるのさ。焦っちゃ駄目だよ」

「はい……」

でもやっぱり籠に沢山の花を寄進していく乙女たちは誇らしそうで羨ましい。
摘んでも摘んでも次々と咲いてくる花を身に着ける乙女たちは、ロレシオが言ったような『自信』に満ち溢れている。

『自分の能力を間違いなく認めると言うこと』。

ロレシオは簡単に言ったが、リンファスが自分に課してみるととても認識するのが難しい。
『認める』とはいったいどうやったら出来るのだろうか。ロレシオは『証』を友人に求めろと言ったけど、でも、どうやって?

リンファスが食堂の掃除を終えて部屋に戻ろうとした時に、リンファスの部屋に行く途中にあった部屋のドアが開いた。プルネルだった。

「リンファス。お部屋に遊びに行っても良いかしら?」

ひょっこりとドアから顔を出したプルネルにそう尋ねられて、リンファスは自分の部屋を思い出した。
実はケイトに習って刺繍を勉強していて、以前刺そうと思っていた菫の刺繍をやっと昨日完成させたばかりなのだ。その片付けが出来ていない。

「え、ええと、お部屋が片付いてないの。プルネルのお部屋にお邪魔しては駄目?」

「ええ、良いわ。私、この前からずっと貴女と話をしたかったの」

笑顔で部屋に迎え入れてくれるプルネルに続いて部屋に入る。
プルネルの部屋も白い家具とファブリックで統一された部屋だった。ひとつ違うのは、大きなドロワーズチェストがあることだった。ぱちぱちと瞬きをしてそれを見たリンファスに、プルネルはなあに? と聞いた。

「これは、ドレスを入れてるの?」

「そうよ。リンファスもこの前ドレスを仕立てたんだから、持っていると良いと思うわ。サラティアナなんて三つも持ってるわ」

「三つも!」

確かにサラティアナのドレスの仕立ての回数は多い。リンファスが取りに行っているから良く分かっている。

「サラティアナは公爵家のご自宅から持ってきたドレスも多いかったから、最初から用意させたそうよ。今でも仕立てているから古いものは捨ててしまっているんじゃないかしら」

そうなんだ……。確かに部屋一つに収まるとは思えない。
村の地主であったオファンズの所にも商店の店主が度々出入りしていたけれど、そういう感覚なのかな、とリンファスは見当をつけた。

「ねえ、リンファス。そんなことよりも!」