「舞踏会に馴染んでいないと思って誘ったけど、そういう理由なら、この季節、カーニバルとかも楽しめるだろうか? 
夜になると各テントにランタンが灯って、通りがオレンジ色になるそうだ。
市ではいろいろなものも売っているらしい。焼きたてのパンやお菓子だったり、アクセサリーだったり、文具も売っていると聞いている。
そしてみんなで大きな祝祭の炎を囲んで踊るそうだ。君の言う収穫祭に似ていると思うから、君、きっと好きだと思うよ」

ロレシオの言葉に、リンファスを楽しませようとする意図以外の色が一切認められなくて、リンファスは大きく頷いた。

ロレシオといることが、何より楽しい。そう思えた。

「昔、村に旅の途中で立ち寄ってくれた旅の一座が、滞在していた間だけテントで市を開いていたわ。市はそれと似たような感じかしら」

「恐らくそうだろうね。どう? 行ってみない?」

今日のこの楽しい気持ちをもっと感じたくて、ロレシオの誘いに高揚した気分のまま頷いた。

「凄いわ、ロレシオ。いろんなことを知っているのね」

「君と違ってずっとインタルに居るからだよ。
僕も此処には初めて来たし、夜の市やカーニバルのことも話に聞いていただけだ。行ったことはないよ」

こんな楽しいショーを知っていながら今まで来なかったなんてもったいない。そう言ったら、何処にも出かけたくなかったんだ、とロレシオは言った。

「君みたいに心許せる友人も居なかったからね。何かを誰かと楽しむ、という感覚を持てなかったんだよ」

……そう言えばロレシオは、リンファスに花が咲いたときに動揺して驚いていた。理由を聞いてしまうと、彼も辛かったんだろうと思う。
そんなロレシオがプルネルやアキムたちと同じようにリンファスのことを『友人』と言ってくれるのが嬉しかった。

「そうだとすると……、私たちは似た者同士なのかしら? ずっと自信を持てずに……友達も作れずに過ごしてきたという……」

リンファスの言葉にロレシオは微笑んだ。

「そのようだ。君という人に会えてよかったと思うよ、リンファス」

ロレシオがリンファスに向かって手を差し出す。ぽかんとその手を見ていると、ふふっと息を吐き出すようにロレシオが苦笑した。

「握手だよ、リンファス。君という友人に会えた、感謝の気持ちを表したい。手を取ってはくれないか」

ロレシオの言葉にはっとして、リンファスはおずおずと手を握った。手のひらから伝わるロレシオのぬくもりとは別のぬくもりが体の中を満たす。
それはやはり左の腰に集まっていって、そこで小さな蕾が花弁の結びを緩やかに解いた。二重の……『友情』に似たかわいらしい花。それはプルネルに咲くアキムやルドヴィックの花の形に似ていた。
あの花を、プルネルは確か『親愛』の花だと言っていなかったか。

「ロレシオ……、私に沢山花をありがとう……。貴方が言っていた『自信』というものの証が、私にも伝染するようよ。貴方に認めてもらうことが出来て、嬉しいわ……」

「僕の方こそ、お礼が言いたいね。僕は君の前で一人の人として生きている気持ちになれる。こんな満ち足りた気持ちになるのは初めてだよ」

二人は視線を交わして微笑みあった。





『友達』がまた一人増えた夜、夜空には星が瞬いていた。