「君はそう言うと思った。
君があの父親が施した呪縛から解かれるためには、きっと、もっとたくさんの時間が必要だろうね。
……しかし、君がそれに囚われてしまうのは、実は、よくわかる」

呪縛? 恐ろしい言葉を聞いて、リンファスはロレシオの隠された目元を真面目に見つめた。
ロレシオは丁寧に言葉を紡ぎ、リンファスに諭すように説明した。

「強い言葉というものは、力を持つ。
一度聞いただけでも十分それを持つのに、繰り返し繰り返し耳にすれば、聞いた相手を洗脳することだってできる。
君が度々自分のことを役立たずだ、と言う理由はおそらくそれだろう。
君は館に来てケイトの仕事を代わったり、他の乙女たちの為に働いたりして役に立っていた筈なのに、なかなかそれを認められない。
それが、あの父親に卑下され続けた結果なんだ。君には、自覚がないようだけど……」

時々飛び起きる、ファトマルに罵倒される夢。
ロレシオは、まるでリンファスがあの夢を見て飛び起きることを知っているかのように告げた。

……もしかして、リンファスは弱い……、のだろうか……。
呪縛から逃れられず、ただ蜘蛛の糸に絡まっているだけの、死にかけの蝶……。
どうしたらリンファスがリンファスで在る為の、確固たる理由が得られるのだろうか……。

「ロレシオ……。私はどうしたらいいのかしら……」

リンファスが問うとロレシオは苦笑した。

「まず、僕が感じたことから言うと、君は、自分で自分の行いを正しく認めることが大事だと思うな。
例えばこの前の舞踏会で、僕が君に花を咲かせたことを認めただろう? そういう、心の変化を認めていくことだと、僕は思うよ。
……僕が自分のことを認められたのは、君に僕の花が咲いたからだったからね。それと同じことだ」

ロレシオもまた、言葉の呪縛というものに苦しんできたのだろうか。それで、今までリンファスに対しても冷たい態度を取っていたのだろうか。
それが、ロレシオが言う『鏡』としての自分の花を見て、彼を縛り付けていた呪縛、というものから抜け出せた瞬間となったのだろうか。
動じないと思っていた心が動いたことを、ロレシオは受け入れた瞬間、おそらく彼は、呪縛のひとつから抜け出せた……。そういうことなのだろう。

「花乙女は、想いが寄せられればその想いの花が咲くのだったのではないの?」

ケイトやプルネルからはそう聞いた。だからこの前の舞踏会の時にリンファスは、ロレシオが何らかの想いを寄せてくれたのだと信じたのだけど……。
リンファスの疑問に、ロレシオはいや、と答え、言葉を続けた。