「……成程……。僕は君という『鏡』を通して自らを見ていることになるのか……。
だとしたら僕は認めざるを得ないのだろうな、僕が君にこの花を咲かせた理由を」

もしかして、認めたくなかったのだろうか。
確かにリンファスは他の花乙女と違ってやせぎすでみっともないし、器量よしという訳でもない。不本意を感じる彼の気持ちも分かる。

「あ……、わ、私が、貴方がこの花を贈るに相応しくない人間だということは、私が一番よく知っています。
ご不快になられるようでしたら、もう二度と貴方の前に姿を現しません」

そう言って握られていた手を引こうとした。しかし、彼は逆にリンファスの手をぎゅっと握った。

「すまない……、そう言うことではないんだ。
ただ僕は……、……八歳の時から時が止まっていた。……見るもの聞くもの、全てに裏を探して見つけていた。君のように……、裏表がない人に出会ったのは初めてだったんだ……」

ぱちり、と。今度はリンファスが瞬きをする番だった。
じゃあ……、彼はリンファスのことを厭っていたのでは、……ない?

「人に……、裏表があるとお思いだったから、ルドヴィックが私を裏切ると思われたのですか……?」

「端的に言うと、そうだ」

なんだ、そうだったのか。そう分かれば断言できることがある。

「そうだったんですか……。貴方もやさしい方なのですね……、プルネルと同じように」

「人の言動に、裏を探すような人間が、やさしいだって……?」

「……はい、おやさしいと思います。ルドヴィックの事、私を、心配してくださったのですよね?」

この人は、悪い人ではない。そう感じたリンファスが、口許に笑みを浮かべながら述べた言葉に、彼は黙りこくってしまった。
なにか見当違いのことを言ってしまっただろうか。そう思っていると、ひどく言いにくそうに彼は口を覆った。

「……いや、違う……。……僕は、あの男を妬ましく思ったんだ……。明かりの元で君と踊れる、あの男を……。だから彼を卑下するようなことを言った。君が言うような、綺麗な感情からではない」

「……ねたましい……?」

どういうことだろう。リンファスが首を傾げていると、分からないなら分からなくても良い、と言われた。

「実は僕にも何故そんなことを思ったのかが分からないんだ。だから君だけが知ることには少し抵抗がある」

「そうなのですね、では私も考えません」

安心した。難しいことを考えるのは苦手だからだ。
働くことは明快に答えが出て好きだが、人と話すことはまだ慣れていないこともあって、彼が言う裏表だって分かっていない。ほっと胸を撫で下ろしたリンファスに、彼は仕事のことを問うてきた。