「疲れた? ちょっと休憩しようか」

ルドヴィックが気さくにそう言ってくれたので、リンファスたちは隣の部屋に避難した。
ルドヴィックが飲み物のグラスを手渡してくれて、冷やされていた葡萄のジュースを飲む。さらりとした液体が、喉を通っていった。
ルドヴィックも手に持ったグラスからひと口葡萄ジュースを飲んで、呼吸の整ったリンファスを穏やかに見つめた。

「……ルドヴィックはサラティアナさんと踊らなくて良いの?」

「この後、踊ることになっている。四ヶ月ぶりだ、嬉しいよ」

そう言って顔を綻ばせるルドヴィックは満面の笑みでリンファスに言った。

「サラティアナは気高い花乙女だから、僕なんかにおいそれとダンスの相手は回ってこない。でも僕は彼女の公爵令嬢という立場を支えてあげたいと思ってるんだ。
幼い頃から大人ばかりを相手にしていた彼女が本当に自由になれるのが花乙女という場所なんだよ。花乙女としてだったら一人の女の子として恋愛が出来る。
……本来だったら僕みたいな貧乏貴族を相手にする必要はない筈の彼女が僕に順番をくれるというだけで、慈悲深いじゃないか。サラティアナは素晴らしい女性だよ」

夢を見るようにサラティアナのことを話すルドヴィックは真に恋する男だった。幸せそうなルドヴィックにリンファスもエールを送る。

「貴方の気持ちが通じるように、アスナイヌトさまに祈るわ」

「ありがとう、リンファス。君も素敵な乙女だ。素晴らしいイヴラが君の前に現れるよう祈るよ」

ふっと音楽が止まってリズムが変わる。ダンスが変わるのだ。

「僕はこの後サラティアナと踊る約束があるから広間に戻るけど、君はどうする?」

嬉しそうに言うルドヴィックに、リンファスは笑顔を返した。

「私は広間の踊りについていけないし、ちょっと約束があるのでこのまま庭に出ます」

リンファスが応えるとルドヴィックは、そう? と言って広間に戻っていった。
リンファスもグラスを置いてテラスから庭に出る。心地よい風が吹いていて、花々がさわ、と揺れていた。
リンファスはドレスのスカートを風に揺らしながら庭を歩いていた。すると庭の奥から人影が現れる。ロレシオだ。

「こ……、こんばん……」

約束通り会えたことにほっとして挨拶をしようとしたら、冷たい声が被った。