「宿舎に入ったのが同時期でね。それに部屋も隣同士だった。
ルドヴィックはサラティアナに対してはああだけど気は良いやつで、僕も幾度となく彼の屈託ない性格に助けられている……。
ああ、こんなこと、ルドヴィックに言っては駄目だよ? 調子に乗ると、手が付けられない」

最後に片目を閉じて合図をしてくるアキムは、本当にルドヴィックのことを親友として好きなんだろう。その好意を素晴らしいと思った。
ウエルトの村では知り得なかった人が人を好きになるということが、いとも簡単にリンファスの前で繰り広げられている。リンファスはそのことに感動を覚えていた。

「あの、……上手く伝わるか、分かりませんけど、そういうお気持ち、素敵だと、思います」

自分が思ったことを相手に伝えると言うのは、なんて難しくて、なんて恥ずかしいんだろう。
ファトマルには悲しい顔も辛い顔も辛気臭いと言われてきたから、そんな顔は見せられなくて懸命に堪えた。
自分の内側を晒すことは、リンファスにとって生きにくくなるだけの行為だったはずなのに、今ルドヴィックについて語ったアキムに対して、リンファスは心に沸きあがった素直な気持ちを伝えたいと思った。
……これは、なんていう感情からだろうか……。それに、あの夜リンファスに興味を持った、と言ったロレシオがあの時持った感情はいったい……。

リンファスはアキムに湧き出た気持ちを伝えきってしまうと、少し後悔した。こんな、出来損ないの花乙女から気持ちを伝えられたって、彼もいい迷惑に違いない。アキムはプルネルに挨拶したついでにリンファスに挨拶してくれただけに過ぎないのに……。

『お前に、分かったようなことを言われたくない』

そういう言葉が降ってくると思っていた。ファトマルの機嫌を先回りすると、何時も言われていた言葉だ。……だけど実際リンファスに掛けられた言葉は、想定外の言葉だった。

「……そうか。少し話をしたばかりの君にそう見えてしまうということは、僕も彼に染まってお人よしになったということだね?」

くすくすと笑いながらアキムが言う。実にいたずらっぽい笑顔だった。
村の隅で固まって遊んでいた子供たちがしていたような、そういう邪気のない笑み。アキムがリンファスに、そう見られても良い、と言っているみたいに見える。

ぽかんとしてアキムを見つめていると、やはりアキムはくすくすと笑っている。機嫌の良さそうな猫みたいだ、と思っていると、プルネルの花が咲いていた隣に、アキムの瞳の色の花がぽん、と弾けるように咲いた。
それを見たプルネルが、嬉しそうにアキムに言った。

「まあ、嬉しいわ、アキム。リンファスを信頼してくれたのね」

「流石、プルネルの人を見る目は間違いがないね。リンファスが何故花を着けていないのか、不思議なくらいだよ」

微笑みながら話をする二人を、リンファスはじっと見ていた。なかなか上手に会話に入っていけないが、どうやらアキムはリンファスのことを『友達』として認めてくれて、『友情』の花を咲かせてくれたらしい。それについては、お礼を言わなければ。

「あ、あの、……アキムさん」

「アキムでいいよ」

呼び掛けたら微笑んでそう言われたので、呼び方を改める。

「あの、……アキム……、……私に花を、あ、ありがとう、ございます……」

リンファスがどきどきしながら言うと、アキムはあっさりと、こういった。