(……父さんも、母さんにそういう気持ちを持ったのかしら……)

今となっては聞くことは出来ないが、リンファスが生まれているくらいなのだから、『愛し合っていた』のだと思う。その感覚を、リンファスは理解できないけど。

「あいつのことを見ていると、恋に溺れるのも程々にしないと自分を見失うな、という反面教師に出来るよ。
あいつの気持ちが通じれば一番良いんだが、いかんせんライバルが多すぎる。
ルドヴィックは誠実で腕の立つ良いやつだけど、それだけで彼女に振り向いてもらえるかどうか……」

アキムの言葉は冷静だったが、サラティアナが座るテーブルを取り囲んでいるイヴラの中にいるルドヴィックのことを心配そうな目で見ている。
最初に二人に会った舞踏会の時に彼のことを『親友』と言っていたから、きっと言葉では突き放しているけれど、ルドヴィックを心配しているんだろう。
『親友』というのはリンファスとプルネルの間に結ばれた「友情」よりも親しい間柄だと、あの舞踏会の帰りにプルネルが教えてくれたから。

そういう風にアキムとルドヴィックの関係を見ていた時に、プルネルがそっと背を押した。思い出すのは、プルネルの言葉。

――『人と話さなければ、自分のことを分かってもいただけないし、愛してもいただけないのよ』

リンファスははっとした。花乙女は、愛されて幸せにならなければならない。リンファスにはまだ愛情の花は咲いておらず、いずれは誰か……イヴラの誰かに自分を知ってもらって、愛してもらわなければならないのだ。

そう気づいて思い出した。……この前の舞踏会の庭でロレシオはリンファスのことを知りたいと言わなかったか? 
愛されないリンファスのことを知りたいだなんて不思議な人だと思ったが、もしかして、彼と話をして行く先に、そう言う未来もあるのだろうか……? そう考えてリンファスは首を振った。

(馬鹿ね……。役立たずの私を愛してくださる人なんて居ないわ……。
あの方も、他の乙女と比べてちょっと変わった私に『興味』を持っただけで、それ以上でもそれ以下でもないわ……)

自分のことは自分が一番よく知っている。何をしても至らないし、不景気な顔もやせぎすな体も相変わらずだ。他の乙女たちとは違う。

(……『興味』の花を頂いただけでも、喜ばなくては……)

この花がもし咲き続けてくれるのなら、その間はアスナイヌトの役に立てる。どうか落ちないで、とリンファスは思った。

そう思いに耽ったリンファスを心配したのか、プルネルがリンファスを呼んだ。

「どうしたの? リンファス。何か心配事……?」

「あ……。違うの、ごめんなさい……。それにしても、アキムさんはルドヴィックさんのことが大事なんですね」

先のアキムの言葉を思い出してリンファスが言うと、アキムはリンファスに向けて苦笑の笑みを漏らすと、不本意ながらね、と答えた。