「以前、君がカーンの店で倒れた時に、僕が君を宿舎まで運んだことはケイトから聞いているんだろう。
あの時、僕がセルン夫人を呼んだ。
『母なる愛情の花』で癒せばいいことは知っていたが、男の僕があの館に長居するわけにもいかなかったからだ。
あの後『母なる愛情の花』で手当てを受けていたのを見て、驚いた。
『母なる愛情の花』をあんなにたくさん使って癒さなければならない程、愛情に縁遠かった君を哀れに思ったんだ」
「まあ!」
じゃあ、命の恩人だ。
あの時にセルン夫人からの治療を受けて、リンファスはまた働けるようになったのだから。リンファスは慌てて頭を下げた。
「そんな恩人とは知らず、失礼致しました。おかげでこの通り、元気になりました」
そうか。だからこの人はリンファスに同情してくれたのだ。
分けてもらう花も栄養にならず、治療の花に頼るしかなかったリンファスのことを、哀れだと思ったのだ。
でもそれで分かった。あの後スカートに咲いた最初の花は、確かにこの人からの贈り物だったのだ。嬉しい。花の贈り主に会えたのだ。
「あの……! この前食べてしまったことを懺悔した花は、確かに貴方からの花だったと思います……!
だって、治療するしかなかった私を、憐れんでくださったのでしょう……!?
ああ、ありがとうございます……! 貴方は二重に私の恩人です……!」
嬉々として礼を述べるリンファスに、ロレシオは戸惑ったようだった。息を詰めたような音をさせた後、何も言わない。
「……あの……」
なにかおかしなことを言っただろうか。もし彼の機嫌を損ねていたらと思うと、リンファスはそれだけで身が縮む思いだった。
やがて、ふう、と大きなため息を零したその人は、本当に不思議な花乙女だ、と呟いてこう言った。
「確かに僕はあの時、君のことを憐れんだ。
花乙女なのに一つも花を持たず、治癒の花に頼るしかない君のことをそう思った。
おまけに君は、その後も花がないのに仕事を続けただろう? 同情を買いたいんだと思っても、当然だとは思わないか?」
風を震わせるテノールが滲むように響く。リンファスは彼の言葉を不思議に聞いていた。
「……確かにケイトさんがおっしゃる通り、愛されていなかったのかもしれません……。だからこそ、働かなければいけないのだと思うのですが……」
「そうかい? 立っていられなくなるほど愛情に飢えていたんだ。
同情ではなく、僕らイヴラに愛してもらおうとすることが、体調回復の近道だったとは思わなかった?
……例えば他の乙女たちがしているように、身なりに気を付け、マナーを学び、社交を覚えることを、君は考えなかったの?」
彼の口から出た言葉を、不思議な気持ちで聞いた。そんなこと、思いつきもしなかった。だって。
あの時、僕がセルン夫人を呼んだ。
『母なる愛情の花』で癒せばいいことは知っていたが、男の僕があの館に長居するわけにもいかなかったからだ。
あの後『母なる愛情の花』で手当てを受けていたのを見て、驚いた。
『母なる愛情の花』をあんなにたくさん使って癒さなければならない程、愛情に縁遠かった君を哀れに思ったんだ」
「まあ!」
じゃあ、命の恩人だ。
あの時にセルン夫人からの治療を受けて、リンファスはまた働けるようになったのだから。リンファスは慌てて頭を下げた。
「そんな恩人とは知らず、失礼致しました。おかげでこの通り、元気になりました」
そうか。だからこの人はリンファスに同情してくれたのだ。
分けてもらう花も栄養にならず、治療の花に頼るしかなかったリンファスのことを、哀れだと思ったのだ。
でもそれで分かった。あの後スカートに咲いた最初の花は、確かにこの人からの贈り物だったのだ。嬉しい。花の贈り主に会えたのだ。
「あの……! この前食べてしまったことを懺悔した花は、確かに貴方からの花だったと思います……!
だって、治療するしかなかった私を、憐れんでくださったのでしょう……!?
ああ、ありがとうございます……! 貴方は二重に私の恩人です……!」
嬉々として礼を述べるリンファスに、ロレシオは戸惑ったようだった。息を詰めたような音をさせた後、何も言わない。
「……あの……」
なにかおかしなことを言っただろうか。もし彼の機嫌を損ねていたらと思うと、リンファスはそれだけで身が縮む思いだった。
やがて、ふう、と大きなため息を零したその人は、本当に不思議な花乙女だ、と呟いてこう言った。
「確かに僕はあの時、君のことを憐れんだ。
花乙女なのに一つも花を持たず、治癒の花に頼るしかない君のことをそう思った。
おまけに君は、その後も花がないのに仕事を続けただろう? 同情を買いたいんだと思っても、当然だとは思わないか?」
風を震わせるテノールが滲むように響く。リンファスは彼の言葉を不思議に聞いていた。
「……確かにケイトさんがおっしゃる通り、愛されていなかったのかもしれません……。だからこそ、働かなければいけないのだと思うのですが……」
「そうかい? 立っていられなくなるほど愛情に飢えていたんだ。
同情ではなく、僕らイヴラに愛してもらおうとすることが、体調回復の近道だったとは思わなかった?
……例えば他の乙女たちがしているように、身なりに気を付け、マナーを学び、社交を覚えることを、君は考えなかったの?」
彼の口から出た言葉を、不思議な気持ちで聞いた。そんなこと、思いつきもしなかった。だって。