ところが翌日寄進する花を集めた後、リンファスに昨夜咲いた花は再びは咲かなかった。
右胸の花だけに戻ったリンファスは世界樹へと花を運ぶ荷馬車の上で、ハラントに尋ねた。

「イヴラの方は、どういう時に花乙女に花を贈るんですか?」

ケイトやプルネルは愛情の証だというが、リンファスは自分がそんなものを受け取れる花乙女だとは思っていなかった。
なんといってもやせぎすで印象が良くない。他の乙女たちはみんな健康的にはつらつと美しいのに、リンファスときたら不健康そのもので、ファトマルには不景気な顔だと嫌がられていた。

ハラントはふむ、と顎髭を撫でると、こう言った。

「花を贈る、って言うだけだったら、ちょっとでも気になったら花は咲くだろうな。
だが、それが続くとは限らない。
例えば茶話会で会って、その時に楽しく喋れば花が咲いた。
でも、その乙女のことをそれっきり忘れちまえば、気持ちが向いてないんだから花はいずれ落ちただろうな」

「落ちる……」

ハラントは馬車を走らせながら応えてくれた。

「花はイヴラがその乙女に気を向けてる間だけ咲く。いっときの感情だったら、その場限りの花だ。
ずっと想い続けるから、摘んでも摘んでも花が咲く。
ケイトも少女の頃は寄進する花を摘んだ後に次が咲くかって気にしてたらしい。
イヴラも茶話会で沢山の乙女と話すだろう? だから、いっときだけの花ってのは、良くあることだ。
リンファスにもいずれ次の花が咲くさ。そう落ち込みなさんな」

ということは、昨夜の花が咲かなくて右胸の花が咲いたままなのにも、何かイヴラの気持ちが関係しているのだろうか。

「リンファスの胸の花は憐みの花に似ているな。同情……、っていうと分かりやすいか。
つまりその花を贈ったイヴラはお前さんに情けを掛けたんだろう。
お腹の花は俺は見てないから分からんが、舞踏会に行ったんだし、誰かがお前さんを見て、おや、と思ったということもあるな。
茶話会や舞踏会はそう言うことが起こりやすい。だけど、その中から本当の愛の花が着いていくもんだ。
茶話会も舞踏会もまだ一回だろう。まだまだこれからだよ、リンファス」

ハラントはリンファスをそう慰めて、ぴしりとハラントが馬に鞭をくれる。荷馬車はガタガタと走っていった。