「まあ、リンファス! 素晴らしいわ!」
舞踏会会場から帰る馬車の中で、プルネルはリンファスの身に着いた花を見てそう言った。
「右胸の花は花弁が一重でこの形だとおそらく贈り主の気持ちが貴女の境遇に寄り添った表れかと思っていたけど、
新しい花は二重で私の花と似た形をしているわね。
これはきっと贈り主の方が貴女に親しみを持った気持ちの表れだわ」
気持ちの種類で花の花弁の形が変わるのか……。
ケイトは其処までは教えてくれなかった。リンファスはまだまだ知らないことがいっぱいだ。
「花の形は想いの形によって変わるの。
情熱、思慕、尊敬、情欲、憧憬……、数え上げたらきりがないわね。人の数だけ愛情の形があるから。
花びらの形が複雑になるほど、深くて複雑な愛だと伝え聞いているけど、私たちに寄せられる愛情は等しく嬉しいわ。
だってその気持ちがあるから、アスナイヌトさまをお支え出来るんですもの」
微笑んで言うプルネルは、今日参加できて良かったわね、と言葉を継いだ。
「次の舞踏会のお約束をして頂けたんですもの。きっとその方、貴女を見初めたのよ」
ガタゴトと揺れる馬車の中で、プルネルは少し興奮気味だった。
その勢いにあの時の様子を思い出して、リンファスはその言葉に戸惑う。
そして、どうもプルネルの言うようなことではないのではないか、と推測した。
「あの方……、私を見たというより、ご自分を見てらっしゃった気がするの……。
花が咲いたときに驚いてらっしゃったし、……私が何かタイミング悪く、花を咲かせてしまったのかもしれないわ」
「まあ、そんなこと言わないで。花は何も悪くないわ。
その方が贈り主かどうかは分からなくても、約束をくださったことは事実なんでしょう?
その花の贈り主でないなら尚更、貴女に花が増えるじゃない。こんな素晴らしいことはないわ」
プルネルはまるで我がことかのように喜んでくれた。リンファスもプルネルの言葉を受け止める。
そうか。花が増えたら、アスナイヌトへの寄進が今一輪の状況よりも良くなる。
今まで感じてきたような後ろめたさも少しは軽減できるかもしれない。
今までなかなか花乙女としての役目を果たせてこなかったから、寄進できる花が増えることは単純に嬉しい。リンファスの心が少し軽くなった。
「……そうね、プルネル。まずは、明日の朝、花を寄進するわ。
その後でもう一度花が咲いたら、喜ぶことにするわ」
「きっと咲くわよ。だって、貴女を見つけたイヴラですもの」
微笑んで言うプルネルに微笑みを返す。馬車はガタゴトと揺れて行った。