何故、とは。

……だって、村でもファトマルの役に立つことはなかったし、花乙女だからとウエルトからインタルに連れてきてもらっても一向に花は咲かない。

館で雑用や乙女たちの遣いのような仕事をさせてもらっているが、それだってあそこで寝起きさせてもらうばかりか身の回りのものまで保証された環境で過ごせる対価にはなっていない。リンファスがそう言うと、ロレシオは不思議そうにこう言った。

「どうして……? 君には、……暗がりで色は分からないけど、花が咲いているように見えるが」

ロレシオはそう言って、自分の右胸をトントンと指差した。リンファスが彼に倣って右胸を触ると、……そうだ、確かにプルネルの花と……それから贈り主不明の蒼い花が咲いているのだった。
はっとしたリンファスに、ロレシオはやや微笑んだように見えた。

「君にも花を贈る人(イヴラ)が現れて良かったと思っている。君、宿舎の医務室で『母なる愛情の花』で手当てを受けただろう?」

何故そのことをロレシオが知っているのだろう。
この人が街で具合を悪くしたリンファスを館に運んでくれたことは聞いたが、手当てのことを知っているとは聞いていない。驚いて、疑問に思ったことをそのまま、リンファスは躊躇わず口にした。

「……そうです……。……でも、何故貴方がそのことをご存じなのですか……?」

その言葉を発したと同時に、体の内に変化を感じた。

右胸に咲いたあの蒼い花が咲いた時と同じような、体の奥からじわりと甘い砂糖が沁み込んでくるような、甘さとあたたかさにずっと包まれていたくなるような、そんな感覚がリンファスを襲った。

その感覚が痺れという過去に知った感覚に変化してリンファスの腹部に集中すると、ワンピースの上に留めていた茶色のリボンの上に小さな……小さな濃い色の花がゆるりと蕾の形で現れ、その結んだ口を解く。

浅く合わさっただけだったのか、花弁はあっけなく開かれ、その姿をリンファスに見せた。

(え……っ?)

リンファスは自分の体に起こった変化に驚いて、リボンの上に咲いた花を見つめた。

花の咲いた腹部にはまだ痺れのような感覚が残っている。しかし花が咲く前も思ったが、この痺れの感覚はリンファスがファトマルに頬を張られた時に感じた痺れよりももっとやさしかった。

やさしくて、体をぽかぽかとあたためてくれて、その甘さに脳が溶け込んでしまいそうな陶酔感をリンファスにもたらした。
そっと指先で花びらに触ると、やわらかくて、指先が宿舎のカーテンに撫でられているみたいだった。

「これは……」

「それは……」