翌日は宿舎の門扉の前に何台もの立派な馬車が入れ替わり立ち分かり着いては乙女たちを舞踏会会場に運んで行っていた。リンファスは参加すると決めたものの、気恥ずかしくてプルネルと一緒に最後の馬車に乗った。

ドレスと花で飾られたプルネルは普段よりもうんとかわいらしかった。

鎖骨あたりで内巻きになっている真っすぐの髪は艶やかで、瞳と同じ色のリボンを頭の横で縦に結んでいる。淡い桜色のドレスは清楚なAラインのドレスで、裾が紫の刺繍入りフリルで飾られている。

ウエストを絞る大きなリボンの端もフリルになっていて、ドレスの裾のフリルと同じく花の柄が刺繍されていた。
ドレスの地布の淡い桜色の色はプルネルに咲いている花の色が良く映えるし、刺繍の紫色が瞳の色と合っていて調和が美しい。
いずれの刺繍も顔周りからは遠いので、プルネルのかわいらしい顔立ちと喧嘩せず、良い調和を保っている。

一方リンファスはドレスなど仕立てたこともなかったし、またそんなものを着て歩けるとも思っていなかったので、ハンナが最初に用意してくれていた洋服のうち、まだ袖を通したことのなかったワンピースを着た。

花乙女用に用意してもらったワンピースで、白地のふくらはぎまでの丈のもの。胸のラインに沿って前身ごろがカットされており、身ごろには縁取りが施されている。
ウエストはハイウエスト気味に絞られており、そこからやや広がるようにタックが取られている。歩いたりすればその布の量でふわっと見えるが、おとなしく立っていれば、すとんと下に落ち、周りの邪魔にならない格好だ。

これに張りのある茶色のリボンを結んでウエストマークした。ワンピースだけで出掛けようとしていたリンファスに、リボンを結んだ方が良いとプルネルがアドバイスをくれたのだ。

かくして二人は馬車に乗り込み、舞踏会会場へと向かった。
御者と従僕の付いたタウンコーチ型は初めてだったため、リンファスは彼らに見られながら馬車に乗るだけで緊張してしまった。

四人乗りの馬車にプルネルと隣同士に腰掛け、馬が馬車を運ぶ振動に揺られる。
ぎゅっと膝の上で握っていた手を、プルネルがそっと包んでくれた。

「緊張するのは分かるけど、あんまり強張りすぎると折角の花が台無しよ? イヴラからの花ですもの、胸を張って良いのよ」

「そ……、そうね……。……でも……」

この蒼い花を贈ってくれた人に会いたいと思ったのは本当だ。でも、この蒼い花はプルネルに咲いている花や、サラティアナたちに咲いている花よりも花弁の数が少ない。
かわいらしい花で、リンファスは好きだが、豪華さには欠ける。

リンファスに咲いている花はプルネルの花と合わせて花は二輪だけ。
先に出掛けていった乙女たちの様子を見ても、自分がこんな豪華な馬車に乗ったり、ましてや舞踏会会場に行くなんてことが、本当に身の丈に合っているのか、リンファスは自信を持てないでいた。
俯くリンファスに、プルネルがやさしく言葉を掛ける。

「館の皆だって、最初は花は少なかったわ。茶話会を通じて、イヴラの方々とお知り合いになって、花が増えていったの。
リンファスはまだ茶話会に一回しか出てないでしょう? 花もこれから増えるわ。
それより今は、その花を贈ってくださった方に、感謝をするべきではないかしら?」

プルネルの言葉は尤もだった。リンファスは気持ちの整理がついて、ほっと安堵の息を零した。

「……そうね、プルネル。私、皆みたいになれない……、って引け目を感じていたの……。
花乙女なのに花が咲かなくて、アスナイヌトさまのお役にも立てなくて、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだったの……。
でも私を認めて下さった方がいらっしゃるなら、まずはその方に向き合うべきよね……。
私、こんななりだけど、その方にありがとうと伝えたいわ……」

「そうよ。それにね、愛することも、愛されることも義務ではないわ。人の心が自由であるように、私たち花乙女の心も、自由であるべきなのよ」

義務ではない……。

ウエルトの村を出てからずっと気になっていたことだった。
ハンナはリンファスに、愛されて幸せになりなさいと言った。だったら、その役目が果たせないのなら、自分は此処に居てはいけないのだと思っていた。

インタルに来てからずっとリンファスを縛っていた言葉からリンファスを救ってくれたプルネルに、リンファスは改めて感謝した。

「……ありがとう、プルネル……。私、インタルに来て、貴女に会えてよかったわ……」



リンファスの言葉に、プルネルはあたたかい笑みを浮かべた。