宿舎の何処もかしこもそわそわとしていて落ち着かない雰囲気だ。
あっちの部屋からもこっちの部屋からも、どのドレスにどのアクセサリーを合わせようか、などと言うかわいらしい悩み事が聞こえる。
リンファスはそんな声を聞きながら微笑ましく夕食の後片付けの後のモップ掛けから戻るところだった。

ふと。

以前も感じたような、体の奥からじわじわと甘い砂糖が沁み込んでくるような感覚が広がって来た。

その脳の芯から陶酔してしまいそうな、今まで感じたことのない――プルネルとの友情を結んだときにさえも――幸福感を感じていると、プルネルの花が咲く右胸のあたりがじんわりとあたたかくなってきた。

(あたたかくて……、この感覚に溺れてしまいたいほど気持ちいい、砂糖を噛んだときのような幸せな気分だわ……)

うっとりとその感覚に浸っていると、あたたかかった右胸の所に、この前と同じ小さな蒼い花がポンと咲いた。

「……っ!?」

その花の様子に、リンファスは驚いてまじまじと花を見た。
プルネルとケイトの話では、花乙女から寄せられる気持ちで咲く花はその瞳の色……つまり紫色であると言うことだった。
しかしこの花は蒼くて花芯が蒼から銀のグラデーション色をしている。廊下のランプの明かりに照らされた銀の花芯はきらきらと輝いており、小さくてもその花の存在を主張していた。

可憐なその蒼い花は一重の花弁をつんとリンファスに見せるように広がっている。この花の贈り主は一体誰なんだろう。リンファスはそう思って、はっと気が付いたことがあった。

宿舎の乙女たちはみんな、色とりどりの花を咲かせている。この前の茶話会では、実際に花が咲くところを見ていた。
あの時に乙女たちに色とりどりに咲いていたのは、相手のイヴラの瞳の色ではなかったか。では、この蒼い花も、もしかしてイヴラからの花なのだろうか……。

でも、一体誰が……?

茶話会でリンファスはアキムとルドヴィック以外のイヴラとは喋らなかった。
そのアキムたちも、出会ったばかりのリンファスには、何の感情も持てない、と言った。心当たりがない。それに。

(とても……、甘くてとろけるような匂いがする……。食べたら絶対に美味しいわ……)

それはこの前初めてこの花と同じ色の花を食べたから分かっている。
プルネルからの友情の花が着いて以来、リンファスの毎度の食事はプルネルの花になっていた。それはそれ以前の、他の乙女が寄進する花を食べていた時よりはお腹が膨れた気がしていたけど、あの時あの蒼い花を食べた時の満足感とは全然比べものにならなかった。

今、プルネルの花を食べているリンファスは、ある程度の満足感を得て食事を終えている。
だが、この甘くておいしそうな匂いは、満足感を得ていた筈のリンファスのお腹を簡単に刺激した。

これを食べたら、絶対に美味しいし、満腹になるし、満腹感で満たされるし、幸せになれること間違いない。

しかし。