ぱちぱちと瞬きをしながら彼らを見ていたリンファスを、プルネルが紹介してくれる。

「あのね、アキム、ルドヴィック。こちら、この前から一緒に暮らしている花乙女のリンファスよ。私のお友達なの」

友達、と言って、プルネルは嬉しそうに微笑んだ。その笑みに、アキムが見惚れる。ルドヴィックはぼうっとしているアキムよりも先に、リンファスに対して挨拶をした。アキムも続く。

「初めまして、リンファス。ルドヴィック・ハティと言います。よろしく」

「僕はアキム・ヴェルラです。よろしく、リンファス」

自分に挨拶をしてくれる人、という人物を今まで見たことがなかったので、リンファスはぽかんとした。それをプルネルが微笑んで挨拶を促す。

「リンファスも名前くらい……。ね?」

プルネルはリンファスが戸惑っていることを気遣って、やさしい声を掛けてくれた。はっと我に返って、自己紹介をする。

「リ、……リンファス・フォルジェです。……すみません、勝手が分からなくて……」

リンファスが緊張から手を握りしめて言うと、ルドヴィックがくすりと笑った。しかしその笑みに侮蔑の色合いはなかった。

「いや、僕たちも図々しかったかもしれない。なにせ、サラティアナと話せると思って期待してきただけに、落胆が大きすぎて、君に対する配慮が足りなかったことは認めるよ。すまなかった」

加えて頭を下げられてしまい、リンファスは慌てた。

「か……、顔を上げてください……! 私、なにも気にしていません。むしろお邪魔なのではないかと思うくらいです……」

「邪魔? 何故?」

何故、……とは……。

「だって、茶話会は乙女とイヴラが出会う場だろう? 君が居ることの、何が邪魔なのか分からない」

リンファスを邪魔扱いしない人が、また一人……。

本当に、リンファスの生きる時間は変わってきている。謗られ蔑まれるだけの存在ではなくなっている自分に、リンファスは尚も戸惑う。
それが伝わったのか、ルドヴィックが明朗に笑った。

「君は訳ありの花乙女のようだ。しかしそこを僕らは問わないよ。どんな人だって、触れられたくないものがある、と僕は思っているからね」

ケイトがリンファスに花が咲いていないことを『親なし』と判断したようなことを、もしかしたらルドヴィックも察したのかもしれない。

イヴラが花乙女に関してどのくらい知識を持っているのかリンファスには分からないが、そこに触れられずに笑顔で対してくれるルドヴィックを、リンファスは心が広い、と思った。

「アキムもそう思うだろう?」

「ああ、同意だな。僕らに過去は要らない。現在と、そして作っていく未来があればいいんだ。それがアスナイヌトを保ち、この世界が平和で在れる為の礎となるんだ。君にも、アスナイヌトの加護と、イヴラからの愛を祈るよ」

口許に笑みを浮かべたアキムが、そう言う。プルネルは、貴方の愛は、今はその時ではないの? とアキムに尋ねた。

「プルネル、そんな無茶を言わないでくれ。たった今、会ったばかりのリンファスに、僕たちが、彼女が花乙女であるという事実以外の、どんな気持ちを持てばいいんだ。
ひとまずリンファスは、もう少し食べた方がいいな。女性はとかく細くいたがるが、僕らから見たらもう少しこう……、ふわっとしていても、かわいらしいと思うんだよ」

「まあ、それって、私が太っているっていう事かしら」

「まさか! プルネル。そんな風に捉えないでくれ。そして、プルネルなら少しくらい太っても可愛いと思うよ」

三人の笑い声に、リンファスも釣られて笑う。明るい談笑の時間が、四人を包んでいた……。