プルネルの行き先はルロワの店だった。店主のルロワはシャキシャキとよく働く細身の女性だ。丸い眼鏡をかけて店に入って来たプルネルとリンファスににこりと微笑みを浮かべる。

「ようこそおいでくださいました、プルネルさん。ドレスのお仕立てですか?」

「そうです。次の舞踏会に着るので」

プルネルの言葉に、でしたら急いで作らなければなりませんね、とルロワは言った。

「一通り、サイズをお測りしましょう」

ルロワはそう言うと、店の奥にあるドアの向こうにプルネルを誘(いざな)った。リンファスはそこでようやく店の中をぐるりと見渡した。

通りに面した窓にトルソーが三体。それぞれ形の違うドレスを着ている。

店の中の細かな引き出しはところどころ半分出されて中を見せている。
プルネルが入っていったドアの側の壁面にはずらりといろんな色・光沢の布が収納されていた。

その他にも店の真ん中にあるディスプレイ用のテーブルには布やビーズで作った花だったり、細かな刺繍の施されたハンカチーフやレースの縁取りのあるグローブなどが置かれていた。

どれもこれもリンファスがまじまじと見るのは初めてのもので、なんだかわくわくする。仕事じゃない外出の所為か、心が浮き立っていた。

(どの商品も素敵……。プルネルはこういうものを身に着けて舞踏会に出るのね……)

華やかに装ったプルネルを想像する。可憐なプルネルが脳裏に浮かんで、リンファスはにっこりと微笑んだ。

(プルネルはかわいいもの……。こういう刺繍が似合いそう……)

リンファスが見つけたのは菫の刺繍が施されたハンカチーフだった。色も瞳の色と合うし、なんといっても可憐なたたずまいの刺繍が目を引いた。

(いつか、私が刺せるようになったら、プルネルに菫の刺繍をプレゼントしたいな……。ケイトさんにお願いして習おうかしら……)

それはとてもいいアイディアのような気がした。リンファスは心を躍らせながら、刺繍のハンカチーフを眺めていた。




帰り道。リンファスはプルネルに機嫌が良いことを問われた。

「ふふ……。今日、楽しかったなと思って」

「そう? 時々一緒に街へ来ましょうよ。リンファスったらいつも仕事ばっかりしていて、あまり楽しみって持ってないんじゃない? 他の乙女たちはそれぞれ楽しみを持ってるんだから、リンファスが楽しみを持ったっておかしくないわ」

そうだろうか。プルネルの花しか身に着けていないリンファスは、やはり働くべきだと思う。しかし、今日のような心のゆとりは確かに持てなかった。

「……そうね……。ケイトさんに時々聞いてみるわ……。私も今日、楽しかったの」

リンファスの言葉にプルネルは、良かったわ、と微笑んだ。



……とても嬉しかった……。