「私は花を咲かせて役割を全うしているプルネルたちの方が素晴らしいと思うわ。
だってみんな、花を咲かせることを求められてあの館に来て、それで実際花を咲かせているんでしょう?私には出来なかったことだわ。
私はハンナさんに花乙女として求められて此処に来たのに、結局役立たずのままなのよ。
それではいけないと思っているんだけど、でもどうしたら花が咲くのか、分からないのよ……」

肩を落とすリンファスに、それなら茶話会に出てみない? とプルネルが誘った。

「……茶話会?」

「そう。花乙女がイヴラの花を咲かせることを求められているのは知っているのよね? 
でも、肝心のイヴラに会わなければ、イヴラからの花は咲かないわ。
花乙女の宿舎の隣の敷地に、同じような建物がもう一棟あるでしょう。あそこはイヴラの宿舎なの。
あの建物と花乙女の館の間、ちょうど真ん中に、『茶話会室』というのがあって、そこで月に何度か、花乙女とイヴラが集まってお茶を飲む会があるのよ。
……リンファス、貴女、一度も茶話会に出たことがないでしょう? だから、今度の茶話会、一緒に、どう?」

目の前がぱっと開けたような気がした。
そうか……、イヴラと出会わなければ花は咲かないんだ。今までイヴラと会ったことのないリンファスに花が咲かないのは、至極道理だ。

期待に胸が膨らむ。しかし本当にリンファスが参加しても良いものだろうか……。

「是非参加したいけど……、でも私本当にやせぎすでみっともなくて……」

とてもイヴラ(男性)の目の留まるとは思えない。奇異な見た目で村人たちから白い目で見られていた過去を思い出す。

俯きがちになるリンファスに、自信を持って、とプルネルが声を掛ける。

「誰でも初めての人と会う時は緊張するわ……。私もそうだったもの……。
……でもね、人とお会いしないと、好いてももらえないし、人と話さなければ、自分のことを分かってもいただけないし、愛してもいただけないのよ。
……私も貴女と会わなかったら、貴女を好きになれなかったし、そうしたら今日、こうやって出掛けてくることもなくて、毎日つまらない生活をしていたでしょうね……」

最初は会うことから……。

そう言えば。リンファスの運命が変わったのは、ハンナと出会ったからだった。
ウエルトの村では、ファトマルに尽くして尽くして息絶えるのだと思っていた。それが今では、野菜スープよりも上等なものを食べさせてもらって、着る物だってぼろぼろの繕った物じゃない新品だ。地主のオファンズたちがしていたような生活を、今、あの村八分にされていたリンファスがしているのだ。
そう思ったら、不思議な気がして来た。

「プルネル……」

「リンファス、勇気を出して。自信を持って。……貴女はそれにふさわしい努力をして来たし、それを認めてもらってもいい人なのよ……」

友達とは、なんとありがたい存在なのだろう……。とかく尻込みしがちなリンファスの背を押してくれる。
いや、友達だけじゃない。気が付けなかったけど、ケイトだってずっとリンファスに言葉をくれていた。
ハンナと出会わなければ、ケイトにも出会えなかったし、プルネルにも出会えなかった。……そう考えると、人と会うことは、案外悪いことではないような気もする。

「プルネル……、私、参加してみるわ……。イヴラの皆さんと、会ってみる」

恐る恐る出した声がプルネルに届くと、プルネルは花のように微笑んでくれた。