夕刻が差し迫ってきた頃に、ファトマルは帰宅した。
また博打で負けたのか、空の酒瓶を持って赤い顔で玄関を荒々しく開けると、そのままふらふらと家の中に入ってきて、倒れ込むようにして椅子に寄りかかった。
そのまま椅子ごと倒れるのではないかと思い、リンファスはファトマルの体を支えた。
「くっそー! また負けた! それもこれもみんなお前の所為だ! お前が俺から運を奪っていく!
天から金が降ってくりゃ、お前みたいな薄気味悪い子供なんかと一緒に暮らさねーのに! もし今すぐ金が降ってくりゃ、お前みてーな役に立たないやつ、売り飛ばしたっていいくらいだ!」
叫んでファトマルは空の酒瓶を逆さまにすると、残りが一滴もないことに舌打ちをした。
「ファトマルさん」
其処へ声を掛けたのは、ハンナだった。こんなに泥酔状態だが、それでもこんな田舎まで来た用事を済ませようとするらしい。
まともな返答は聞けないと思うが、リンファスに口出しする権利はないので、黙ってファトマルをもう一度しっかりと椅子に座り直させた。
「誰だあ? おめーは」
「わたくし、ハンナ・グレンフォートと申します。ファトマルさんに、折り入ってお話があるのですわ。そう、リンファスのことで」
「ああ?」
酔って半眼のファトマルを、ハンナは穏やかに見つめた。
威勢ではファトマルの方が圧倒的に見えるが、何故かこの場を支配しているのはハンナだと、リンファスは思った。