「……えっ!?」

こんな短時間に二回も花が!? リンファスが驚いてプルネルに手を握られたまま胸に咲いた花を見ていると、プルネルが、ふふ、と微笑んだ。

「花が咲かないなんて、嘘じゃない。その花は、花乙女の花よ。きっと、私の花だわ」

「え……っ? 貴女の……?」

意味が分からなくて、リンファスはプルネルに問うた。プルネルは微笑みを浮かべたまま、もう一度リンファスの手をぎゅっと握った。

「そうよ。だって私と握手したら咲いたんだもの。……、私、貴女のこと、尊敬するわ。一生懸命やれることをやるって、とても素晴らしいことだもの。だから、一緒に居て仲良くしてくれると嬉しいわ」

にこりと笑うプルネルに訳の分からないことを言われて、リンファスは混乱する。

「わ……、私を尊敬なんて、とんでもありません……! わたしなんか、いつも村では村八分だったし、父の役にも立たなかったし……。……此処に来てからも……、花乙女の役割はその身に着く花をアスナイヌトさまに寄進することだって聞いても、花なんて咲いていなかったから、何も出来なかったし……。兎に角役立たずなんです……!」

懺悔の言葉が一気に噴き出る。プルネルは戸惑いながら言葉を零すリンファスを見守っていた。そしてリンファスがひと息息を吐くと、微笑みを絶やさずにこう言った。

「何かが出来ない状態の中でも、何かできることを探すって、とても頑張りが必要だし、その一歩を踏み出すのって、凄く勇気が要ると思うわ。
……だって、頑張らなくちゃいけない、って思うってことは、……つまり、『今』頑張れてない、至らない、って認めることでしょう……? 
そんな気持ちを乗り越えて、お父さまと暮らしてきたこと、此処に来てもお掃除とかいろんなお仕事を探してやってたことは、……花乙女というだけで安穏と暮らして此処に入った私とは違う、……とても自立した女の子だと思うわ。
貴女は自信を持って良いのよ」

リンファスはプルネルの言葉をぽかんと聞いていた。……自分が……、……人に褒められている……!? ありえない事態を飲み込めなくて、リンファスは更に戸惑った。

「で……、……でも、私……、花乙女だと言ってもらったのに、花も咲かなくて……!」

そう……。此処に来てからもずっと引け目を感じていた。新しい役回りをもらえるのだと期待してきたのに、役立たずだった。そういう気持ちで言うと、プルネルはおかしそうに笑った。

「やだわ。今あなたの胸に付いている紫の花は、花乙女の花じゃないの?」

そう言われて、もう一度自分の右胸を見る。其処にはさっき見たのと同じように、小さくて可憐な、紫の花が咲いている。

「……、…………」

「ね? 貴女は花を咲かせられる花乙女でしょう?」

にこり、と。

プルネルの微笑みが、涙が出るくらい嬉しかった。





……誰かに何かを言われてこんなに嬉しいと感じるのは、もしかしたら初めてだったかもしれない……。