そのまま何もしないで過ごすなんてことは出来なかったので、軽い廊下の窓ふきから仕事を再開した。
ケイトはリンファスの仕事をさせるのを渋ったが、仕事をしなければ此処に居る理由がないから、と懇願してやっと仕事をもらえた。

病人だったのに、とはケイトの言葉だが、聞けば空腹だっただけなのだから、この理由でリンファスが仕事をしないで居られるわけがなかった。

バケツに水を汲んで雑巾を絞ると窓の硝子の内側と外側を磨く。
午後の陽光が窓から差し込んでいて気持ちが良いくらいだ。こんなに体調が良くて気持ちいいのは生まれて初めてかもしれない。

リンファスは歌を歌いそうになるくらいに上機嫌で窓ふきをしていた。
汚れた雑巾を水で洗っていると、医務室で起きた時に満たされた感覚になっていたのとは別の、……なにか、体の奥底から山羊のミルクをたくさん飲んだ時のような、染みるような甘さが沸き上がって来た。

(……ううん、山羊のミルクとも違うわ……。これは、ケイトさんに作ってもらったミルクティーを飲んだ時に感じた甘さだわ……。
……そう、あの時入れた……、そう、砂糖がお腹に染みていった感じに似ている……)

じわじわと、砂糖が入ったミルクティーに浸されたような感覚に溺れる。
初めての感覚に戸惑っていると、リンファスのスカートの上に小さな蒼い花がふわりとその花弁を開いた。

(…………えっ?)

突然、何の前触れもなく咲いたその銀の花芯の花は、一重の蒼い花弁を誇らしげにリンファスに見せた。
すると、その咲いた花から、まるで砂糖を齧ったかのような錯覚を覚えるくらいに、鼻腔にあの時ミルクティーを飲んで感じた甘さがダイレクトに突き刺さって来た。

「……、…………っ!」

その甘い匂いに、直感的にその花が甘いのだということを理解したリンファスは、こともあろうか、たった一輪咲いたその花を、雑巾も投げ出して手でむしり取ると、むしゃむしゃと貪り食ってしまったのだ。

(甘い……、甘いわ……! 
ミルクティーなんて比べようもないくらいに、甘い! 
これは、なに!? おなかが、たった一つこの花を食べただけで、さっきまでとは違う、満腹になってしまうくらいに美味しくて甘くて満たされるわ……!)

リンファスは齧るときに零れた花びらの欠片まで全て食べきってしまった。全て食べきってしまってから、はっと我に返る。

「……、……」

(……こ、この花が、もしかしたら、花乙女に咲く『花』だったのかしら……。だとしたら、私、とんでもないことをしてしまったわ……)

そう。花乙女の役目はアスナイヌトに花を寄進すること。その役目を果たさずに自分で食べてしまった罪は重い。リンファスはその場で青くなっていた。

そこへ。