「ふふっ、美味しくない、って顔に書いてありますわ」

サラティアナが面白そうに笑った。

「美味しくないよ……。まだカンテ(茄子の一種)を食べる方がましだ。君はこれを美味しいと感じているの?」

ロレシオの疑問にサラティアナは、それは私にとって、太陽が夜に現れないのと同じことですわ、と応えた。
ロレシオは残った花の花弁を一枚取って、指先でくるくるとひらめかせてみる。

「お母さまも、こういう花を召し上がっているのかなあ……」

「そうでしょうね。愛される味は大変甘くておいしいですもの。ジャムなんて目じゃありませんわ」

サラティアナは事もなげに答えた。不思議な気持ちで花を見る。

「不思議だよ……。君という存在……、そして、花乙女という存在が……」

「すべてを知るには、アスナイヌトさまにならなければ分かりませんわ」

そう言って微笑むサラティアナをロレシオはじっと見た。

「君にも全ては分からないの?」

「そうですわ。だって私は人間のお母さまから生まれてますもの」

「お母さまにも分からないんだろうか……」

ロレシオの言葉にサラティアナは微笑んだ。

「わたくしよりはご存じだと思いますけど、でもカタリアナさまもお母さまは人間でいらっしゃるのでしょう? 人のコトワリから外れて考えるのは、難しいと思います。ただ」

「ただ?」

ロレシオが続きを促すと、サラティアナはこくんと頷いた。

「『愛』というものを実感できた時に、……アスナイヌトさまのお気持ちに近づけるんじゃないかと、わたくしは思っているんです」

「愛……」

そうです、愛ですわ、とサラティアナは言う。

「親愛、友愛、慈愛、恋愛……恋い慕う愛情、色々ありますわよね。
それらの花を身に着けるということの意味が分かったら、アスナイヌトさまのお気持ちも少しは分かるのではないかと……。
これは母からの聞かされたことなのですけども」

サラティアナの言葉を聞いて、ぼんやりと花乙女は良いなあと思った。
だって、会えなくても愛されているのならその証拠が花となって咲く。
ロレシオが花乙女だったら、カタリアナに愛されていればこの身に花が咲いて慈愛の印が見えるのに。

「……ちょっと妬けちゃうな、花乙女という存在に」

ロレシオの言葉に、サラティアナは微笑むだけだった。