ロレシオがサラティアナに初めて会ったのは王城の謁見の間でだった。
物心ついた時には既に親との交流はなく、乳母とたった一人の家庭教師、ルーカスが居ただけの生活だったので、王城の『月の間』に呼ばれたときは、誰か人に会えるんだ、とわくわくしていた。
『月の間』はその名の通り、夜空に浮かぶ月のような淡い黄色の石で出来た謁見の為の部屋で、『太陽の宮』と呼ばれる王位を継いだ者が住まう宮殿と対になっている『月の宮』の一室だった。
主に直系王族が即位するまでの間に使われる部屋で、ロレシオはこの時初めてこの部屋に入った。
ロレシオが部屋に入り、ロレシオが上座の席に座るとルーカスが客人を連れてきた。
「ロレシオ王子、お目通りありがとうございます」
そう雲雀が鳴くような声を発して優雅にお辞儀をしたのは、利発そうな、かわいらしい女の子だった。
ロレシオの部屋にも飾られている絵画の、女神・アスナイヌトのようなきれいな白の髪と澄んだ紫の瞳で、髪の毛と左胸の所に一重の白い色の花が咲いている。
ロレシオはルーカスから『花乙女』のことを教わって育ったから、彼女が花乙女だということは直ぐに分かった。
「君! 君は花乙女だね!?」
ロレシオは興奮から、彼女に向かってそう叫んだ。女の子はにこりと猫が喉を撫でられた時のような目をして嬉しそうに、「そうですわ」と応えた。
ルーカスから自分の母親が花乙女だとは聞いていたが、記憶にある限り会ったことがないので、花乙女と対面するのはこれが初めてだった。
「すごい! 本物の花乙女に初めて会ったよ! 僕のお母さまも、君みたいにきれいな瞳なのかな」
弾む心でそう言うと、女の子は、
「カタリアナさまは、わたくしよりもお美しい瞳をなさっておられますわ」
と教えてくれた。女の子の教えてくれた母親の情報に、ロレシオは得意げになった。
「僕はお父さまとお母さまがご結婚された時の写真をもらってあるんだ。
写真は白黒で、お父さまの瞳の色は良く分からないけど、写真のお母さまが薄いグレイに写ってて、透き通った瞳をしているのが分かるんだ。
でも、実際に会ったことのある君が言うなら間違いないんだね。君の名前はなんていうの?」
「サラティアナ・アンヴァと申します、ロレシオ王子。父はグレン・アンヴァ公爵ですわ」
綺麗な発音で、女の子は自分の名を名乗り、ちょっと嬉しそうにはにかんだ笑みをこぼした。
「実はわたくし、カタリアナさまと名前が似ていることが、ちょっとした自慢なのですわ」
零れた嬉しさに、彼女は口許を手で覆った。
言われてみれば本当だ。ロレシオはその嬉しそうな微笑みに、一気にサラティアナに好感を抱いた。
「サラティアナ、君のお父さまはこれから王城に通うの?」
「父はこれからも何度か国王陛下にお目にかかる予定があるそうですわ、ロレシオ王子」
それは吉報だ。その時に彼女に一緒に来てもらえばいい。ロレシオは早速ルーカスを呼んだ。
「ルーカス、お願いだ。アンヴァ公爵がこれから城に上がるときには、サラティアナを連れてこられるよう、お父さまにお願いして欲しいんだ」
ルーカスはとても従順な家庭教師だったので、直ぐに頷いてくれた。
「公爵がおいでになれない時で、サラティアナさまがご希望されるようでしたら、近衛兵に通達して門を通れるよう、陛下にお願いしてまいりましょう」
「ありがとう、ルーカス! サラティアナ、もっとこっちに……、ああいや、僕がそっちへ行く。もっと花乙女の話をして。お母さまの話を聞かせて欲しい!」
「お望みのままにお話しますわ、ロレシオ王子」
サラティアナが賢い女の子で本当に良かったと、この時ロレシオは思った。この時のロレシオは、そのくらい両親……、とりわけ母親に飢えていたのだ。
物心ついた時には既に親との交流はなく、乳母とたった一人の家庭教師、ルーカスが居ただけの生活だったので、王城の『月の間』に呼ばれたときは、誰か人に会えるんだ、とわくわくしていた。
『月の間』はその名の通り、夜空に浮かぶ月のような淡い黄色の石で出来た謁見の為の部屋で、『太陽の宮』と呼ばれる王位を継いだ者が住まう宮殿と対になっている『月の宮』の一室だった。
主に直系王族が即位するまでの間に使われる部屋で、ロレシオはこの時初めてこの部屋に入った。
ロレシオが部屋に入り、ロレシオが上座の席に座るとルーカスが客人を連れてきた。
「ロレシオ王子、お目通りありがとうございます」
そう雲雀が鳴くような声を発して優雅にお辞儀をしたのは、利発そうな、かわいらしい女の子だった。
ロレシオの部屋にも飾られている絵画の、女神・アスナイヌトのようなきれいな白の髪と澄んだ紫の瞳で、髪の毛と左胸の所に一重の白い色の花が咲いている。
ロレシオはルーカスから『花乙女』のことを教わって育ったから、彼女が花乙女だということは直ぐに分かった。
「君! 君は花乙女だね!?」
ロレシオは興奮から、彼女に向かってそう叫んだ。女の子はにこりと猫が喉を撫でられた時のような目をして嬉しそうに、「そうですわ」と応えた。
ルーカスから自分の母親が花乙女だとは聞いていたが、記憶にある限り会ったことがないので、花乙女と対面するのはこれが初めてだった。
「すごい! 本物の花乙女に初めて会ったよ! 僕のお母さまも、君みたいにきれいな瞳なのかな」
弾む心でそう言うと、女の子は、
「カタリアナさまは、わたくしよりもお美しい瞳をなさっておられますわ」
と教えてくれた。女の子の教えてくれた母親の情報に、ロレシオは得意げになった。
「僕はお父さまとお母さまがご結婚された時の写真をもらってあるんだ。
写真は白黒で、お父さまの瞳の色は良く分からないけど、写真のお母さまが薄いグレイに写ってて、透き通った瞳をしているのが分かるんだ。
でも、実際に会ったことのある君が言うなら間違いないんだね。君の名前はなんていうの?」
「サラティアナ・アンヴァと申します、ロレシオ王子。父はグレン・アンヴァ公爵ですわ」
綺麗な発音で、女の子は自分の名を名乗り、ちょっと嬉しそうにはにかんだ笑みをこぼした。
「実はわたくし、カタリアナさまと名前が似ていることが、ちょっとした自慢なのですわ」
零れた嬉しさに、彼女は口許を手で覆った。
言われてみれば本当だ。ロレシオはその嬉しそうな微笑みに、一気にサラティアナに好感を抱いた。
「サラティアナ、君のお父さまはこれから王城に通うの?」
「父はこれからも何度か国王陛下にお目にかかる予定があるそうですわ、ロレシオ王子」
それは吉報だ。その時に彼女に一緒に来てもらえばいい。ロレシオは早速ルーカスを呼んだ。
「ルーカス、お願いだ。アンヴァ公爵がこれから城に上がるときには、サラティアナを連れてこられるよう、お父さまにお願いして欲しいんだ」
ルーカスはとても従順な家庭教師だったので、直ぐに頷いてくれた。
「公爵がおいでになれない時で、サラティアナさまがご希望されるようでしたら、近衛兵に通達して門を通れるよう、陛下にお願いしてまいりましょう」
「ありがとう、ルーカス! サラティアナ、もっとこっちに……、ああいや、僕がそっちへ行く。もっと花乙女の話をして。お母さまの話を聞かせて欲しい!」
「お望みのままにお話しますわ、ロレシオ王子」
サラティアナが賢い女の子で本当に良かったと、この時ロレシオは思った。この時のロレシオは、そのくらい両親……、とりわけ母親に飢えていたのだ。