「貴方の声が聞こえたと思ったら、リンファスを抱えて来るんだもの、驚いたわ。どうして茶話会にも出てこない貴方がリンファスを連れてくるの?」
「其処をどいてくれないか、サラティアナ。此処に男が居てはまずいだろう。僕は帰りたいんだ」
「私の問いに答えてないわ、ロレシオ。貴方、自分の役目をどう思っているの?」
「答える義務がない。帰るぞ」
サラティアナの質問に答えず、ロレシオは廊下を突っ切った。サラティアナの横を通り過ぎようとした時に腕を取られたが、力任せに外した。
「ロレシオ!」
「裏切ったのは君が先だ、サラティアナ」
言いおいて、ロレシオは花乙女の館を去った。残されたサラティアナは悔しそうに叫んだ。
「裏切ってなんかないわ! どうして信じてくれないの!」
廊下にサラティアナの声が響いた。
程なくしてセルン夫人が宿舎に着いた。夫人は医務室でリンファスの痩せ具合を見て、一体何を食べさせていたの、とケイトに問うた。
「花だよ。だってリンファスは花乙女だから」
「この子には花が咲いてないじゃない」
そうだ。だから他の少女たちから集めた花を食べさせた。そう言うと、それでは駄目なのよ、とセルン夫人は言った。
「花乙女はアスナイヌトさまの子だけど、どんな花でも良いというわけではないわ。
乙女は自分に咲いた花しか受け付けないのよ。アスナイヌトさまはどんな乙女からの花でも召し上がるけど、乙女はそうではないの。
貴女、他の乙女の花を食べたことあって?」
「……ないよ……。……だって、子供の頃に自分の花を食べることを教わったから……」
「そうでしょう、それしか基本的に受け付けないから、そう教わるのよ。
それも無理なら、人間の食べ物しかないわね。
花乙女はアスナイヌトさまの子ですけど、人間から生まれますからね。
花乙女でも赤ん坊の時は母親のお乳で育つでしょう。花乙女が花を食べ始めるのはお乳を卒業してからですから、この子くらいの年になると人間の消化機能はかなり衰えている筈ですけど、でも機能は生きているわ」
セルン夫人の言葉にケイトは以前出したお茶にミルクを入れていたリンファスを思い出した。
花茶のミルクティーを飲んだ時、今まで花を食べていた時とは明らかに違う顔をしていた。驚きと、安心を混ぜたような表情をしていた。
あれは、リンファスの人間の消化機能が機能したからなのだと理解した。
「だとしたら、これからこの子は人間の食べ物を食べていくしかないのかい?
この子は自分に花が着いていないことを、それはそれは苦にしていたんだ。
みんなが花を食べているときに一人だけ人間の食べ物を食べることになったら、余計に花乙女としての自信をなくしちまうよ……」
リンファスは花乙女としてこの宿舎に居られる為に、出来ることを精いっぱい頑張っている。
それに水を差すようなことはしたくなかった。
ケイトが不安な顔になったのを見て、セルン夫人は微笑んだ。
「そういう時のために、庭で紫の花を育てているのよ。ケイト、庭の紫の花をたくさん摘んできて頂戴」
「紫の花を……?」
「そうよ。兎に角お願い」
夫人に言われて、ケイトは分かったよ、と庭に急いだ。
「其処をどいてくれないか、サラティアナ。此処に男が居てはまずいだろう。僕は帰りたいんだ」
「私の問いに答えてないわ、ロレシオ。貴方、自分の役目をどう思っているの?」
「答える義務がない。帰るぞ」
サラティアナの質問に答えず、ロレシオは廊下を突っ切った。サラティアナの横を通り過ぎようとした時に腕を取られたが、力任せに外した。
「ロレシオ!」
「裏切ったのは君が先だ、サラティアナ」
言いおいて、ロレシオは花乙女の館を去った。残されたサラティアナは悔しそうに叫んだ。
「裏切ってなんかないわ! どうして信じてくれないの!」
廊下にサラティアナの声が響いた。
程なくしてセルン夫人が宿舎に着いた。夫人は医務室でリンファスの痩せ具合を見て、一体何を食べさせていたの、とケイトに問うた。
「花だよ。だってリンファスは花乙女だから」
「この子には花が咲いてないじゃない」
そうだ。だから他の少女たちから集めた花を食べさせた。そう言うと、それでは駄目なのよ、とセルン夫人は言った。
「花乙女はアスナイヌトさまの子だけど、どんな花でも良いというわけではないわ。
乙女は自分に咲いた花しか受け付けないのよ。アスナイヌトさまはどんな乙女からの花でも召し上がるけど、乙女はそうではないの。
貴女、他の乙女の花を食べたことあって?」
「……ないよ……。……だって、子供の頃に自分の花を食べることを教わったから……」
「そうでしょう、それしか基本的に受け付けないから、そう教わるのよ。
それも無理なら、人間の食べ物しかないわね。
花乙女はアスナイヌトさまの子ですけど、人間から生まれますからね。
花乙女でも赤ん坊の時は母親のお乳で育つでしょう。花乙女が花を食べ始めるのはお乳を卒業してからですから、この子くらいの年になると人間の消化機能はかなり衰えている筈ですけど、でも機能は生きているわ」
セルン夫人の言葉にケイトは以前出したお茶にミルクを入れていたリンファスを思い出した。
花茶のミルクティーを飲んだ時、今まで花を食べていた時とは明らかに違う顔をしていた。驚きと、安心を混ぜたような表情をしていた。
あれは、リンファスの人間の消化機能が機能したからなのだと理解した。
「だとしたら、これからこの子は人間の食べ物を食べていくしかないのかい?
この子は自分に花が着いていないことを、それはそれは苦にしていたんだ。
みんなが花を食べているときに一人だけ人間の食べ物を食べることになったら、余計に花乙女としての自信をなくしちまうよ……」
リンファスは花乙女としてこの宿舎に居られる為に、出来ることを精いっぱい頑張っている。
それに水を差すようなことはしたくなかった。
ケイトが不安な顔になったのを見て、セルン夫人は微笑んだ。
「そういう時のために、庭で紫の花を育てているのよ。ケイト、庭の紫の花をたくさん摘んできて頂戴」
「紫の花を……?」
「そうよ。兎に角お願い」
夫人に言われて、ケイトは分かったよ、と庭に急いだ。