リンファスの仕事は花を運ぶだけに留まらなかった。

宿舎の共有スペースの掃除、食事の際の皿の出し入れは言うに及ばず、馬の世話や、時には他の少女たちが街の店に注文した衣類や雑貨などを店まで取りに行くこともした。

兎に角自分は花を寄進することが出来ないのだからと、見つけた仕事は何でもやった。注文した物は店の人が届けてくれるから良いと遠慮する少女もいたが、兎に角何でも役に立ちたかったからやらせてもらった。

ケイトには困った顔をされたが、仕事をしている時間は充足感に満ちていた。
ウエルトの村では働くことで生きてきた。だからそれしかやり方が分からないのだ。
仕事をもらえてありがたい、とリンファスは心底思っていた。

ところが、ウエルトの村と同じようにいかないこともあった。食事だ。
相変わらず宿舎では花だけが出される。最初こそ少し甘いかと感じた花の味をどんどん感じなくなった。
村で野菜スープを摂っていた時に感じたような、食べたものが体に染み渡る感じはなく、ただ薄っぺらな花弁を食んで飲み込んでいるだけ、と感じるようになっていった。
リンファスは食事のたびに落ち込むようになった。


(……私が出来損ないの花乙女だからだわ……。だってみんな、美味しそうに花を食べているもの……。
花が咲かなくて出来ることが限られるばかりか、食事まで花乙女になり切れないなんて、本当に私は出来損ないだわ……。
こんなことではアスナイヌトさまに見捨てられてもおかしくないわ……)

レリーフのアスナイヌトを思い出す。
慈愛の眼差しは花なしのリンファスを包み込んでくれるようなやさしいものだった。それなのにあの眼差しに応えることすらできない。

リンファスは時に自分の、花乙女としてのこれからを憂いて、眠れない暗闇の中、膝を抱えて過ごした。