「じゃあ、行くかい? あんた世界樹を見たことないだろう? 一緒に世界樹にも触れると良い。きっといいことが起こるよ」

「……世界樹はインタルに来る途中で遠目で見ていました。ハンナさんはこの世界の真ん中にそびえている、って仰ってましたけど……」

リンファスは小さいほうの籠を荷馬車に積む。籠を積み終わったケイトが荷馬車に乗り込んで教えてくれる。

「その通りさ。この世界の大地と天を支えてくれているとても大きな樹だよ。大陸(アダルシャーン)の真ん中にそびえ立っていると言われてるね。
アディアはアダルシャーンの真ん中に位置しているから、アディアの真ん中ともいえるね」

リンファスの今までの土地勘はウエルトの村の中だけのことだったが、村の外にはいろんな土地があって、いろんなものがあるのだな、と知った。

「そして、アスナイヌトさまは世界樹に宿る女神さまなんだ。
アスナイヌトさまが健やかでいらっしゃるから世界樹がゆるぎなくそびえ立ち、世界は平和に保たれている。
アスナイヌトさまに食事を寄進できるのは花乙女だけなんだから、そりゃあ国だって花乙女を大事にするのさ」

ケイトの言葉を聞いて、ハンナの言葉を思い出す。花乙女がいかに大事か、ということを繰り返しリンファスに説いたハンナの言葉の意味が分かった。
リンファスは籠の中の色とりどりの花々を見て呟く。

「……そんな、大切な花なんですね……」

「ああ、そうだ。これは一日だって欠かしちゃいけない仕事だ。あんたは自信を持って良いんだよ」

明朗なケイトの声でそう言われると、なんだかそんな気持ちになれてくる。

「さあ、行くよ。陽が天に上り切る前にアスナイヌトさまに食事をしてもらわないとね」

「はい!」

リンファスは元気よく返事をして、荷馬車に乗り込んだ。