そして翌朝を待たずして、リンファスは夜中に空腹を感じた。
花を半分しか食べなかったからだろうか。次の食事がいつか分からないけれど、その時は嫌だと思わずちゃんと食べよう、と気持ちを決めた。

果たして翌朝、村での生活と同じく朝食の時間が来た。
昨日の夕食の時と同じように食堂に集まり、リンファスも他の少女たちと一緒にテーブルに着くと、白い皿にはケイトが別の花乙女からもらった花を乗せてくれた。

リンファスは花びら一枚一枚の薄い甘みをなるべく噛みしめるようにして食べた。
まるで薄めた山羊の野菜スープのようなほんのわずかな甘みを、手繰りながら食事を進める。
他の少女たちは美味しそうに花を食べているから、リンファスが花の味に馴染まないのは、まだ花の食事に慣れていないからなんだと思った。

食事が終わってしまうと少女たちは席を立って、食堂の入り口に置いてあった大きな籠に自分に付いている花を全て摘んで入れていく。
何をしているんだろう、とリンファスが席を立てずに見守っていると、少女たちが出て行ってしまってから、昨夜のように皿を片付けに来たケイトが籠の中の花をチェックしていた。

「ケイトさん。皆さんがその籠に花を入れていかれました。何かに使うんですか?」

花乙女に咲く花は彼女たちの栄養になるんだってハンナが言っていた。
だとしたら、自分の栄養になるものを、わざわざ摘み取ってみんなで集めている理由は何だろう?

「ああ、これがアスナイヌトさまに寄進する花たちなのさ。乙女たちは朝食後にアスナイヌトさまの為に花を摘む。
そしてこれに朝露をまぶしてアスナイヌトさまの所に届けるのが、あたしの仕事だよ」

そうか。昨日言っていたアスナイヌトのところまで運ぶ花というのは、此処に暮らす少女たちが摘み取った花のことだったのか。

ケイトの話に納得していると、皿を片付け終えたケイトは、行ってみるかい? とリンファスに尋ねた。勿論、花を運びに行くのである。リンファスは満面の笑みで頷いた。

「はい! 働かせてください!」

対してケイトは、やれやれ、と言った様子で大きな籠を抱えた。

「そんな体のあんたにはこの大きな籠は持てないだろう。半分小さな籠に移してあげるよ。それを持っとくれ」

ケイトが籠をもって厨房へ行くと、食器棚の隣に大小さまざまな籠が積まれていた。ケイトはその中から適当と思われる籠を取り出し、大きな籠いっぱいに入っていた花を半分に分けた。

籠に入っているものが花なので重さとしては軽い。だが嵩が張り、籠を抱えると前が見辛かった。
ケイトの後を追って宿舎の玄関から敷地を出たところで、誰かにぶつかってしまい、その拍子に籠の中の花を散らしてしまった。