「……ケイトさん……。……これが、愛情の証……なんですか……?」

確かにリンファスはファトマルにこんなことはしてもらったことはなかった。それなら納得できる、と思ったが、ケイトはいいや、と言った。

「あたしはこの館を任された寮母だ。
あんたを始め、此処に居る全ての乙女に対して、快適に暮らしてもらえるよう心を配ってる。
あんたにもそうすることへの、……まあ、あたしなりの誓いの証さ」

そうなのか……。リンファスは少し顔を俯けた。

結局、ケイトと話してもリンファスがファトマルから愛情をもらえなかったのだろう、ということしか分からなかった。

(父さんは私に仕事と寝るところを与えてくれたのに……、それだけじゃ足りなかったのね……。
そう考えたら、ハンナさんとケイトさんも寝るところと仕事をくれただけだわ……。それは『愛される』っていうことじゃあ、ないのね……)

難しい……。

リンファスが生きてきた世界と、まるで違ってしまった。
畑仕事をして、市に出て、山羊の乳と野菜の残りで食事を作っていればよかった村での生活とは、求められることがあまりにも難しい。

リンファスは手を広げてじっと自分の手のひらを見た。

(この手で、『愛情』を掴んだりすることが出来れば良いのに……)

『愛情』が目に見えて、畑の野菜のようにどうにかして掴むことが出来れば、『愛された』と分かるのに……。

目に見えないものを探して、『愛されて幸せになる』にはどうしたら良いんだろう……。リンファスは途方に暮れてしまった……。