「あの……イヴラ、……というのは……」

続けて問うリンファスに、ケイトは、ハンナはそんなことも教えなかったのかい? と驚いた様子だったけど、疑問を顔に浮かべたリンファスに対して深く微笑んだ。

「イヴラってのは、花乙女の対となる存在さ。平たく言えば、花乙女の結婚相手だ。
イヴラだけが、花乙女にアスナイヌトさまに寄進する花を花乙女に咲かせることが出来るんだよ。
この屋敷の隣に、もう一つ同じくらいの広さの敷地に立った白い建物があっただろう。あっちの宿舎にイヴラは暮らしてる。
イヴラも国から保護されてるのさ。なんてったって、花乙女はイヴラが居ないとアスナイヌトさまに寄進する花を咲かせられないからね」

そうか……。談話室の乙女たちに咲いていた色形様々な花は、イヴラという人が咲かせた花なのか。

「……ケイトさんに咲いてる花は一種類ですよね……。さっき談話室でお会いした女の子たちにはいろんな花が咲いてました。乙女によって、咲く花が違うんですか……? 年齢とか……?」

「ああ、まだ両想いになってないからね。
乙女が、花を咲かせてくれたイヴラの想いに応えた時に、あたしみたいに全身にその瞳の色の花が咲くのさ。分かりやすいだろう?」

そうか……。そのことを、ハンナは『愛されて、幸せになる』ということだと言ったんだ。
だとしたら、イヴラと会ったことがなかったリンファスに花が咲いていないのは当たり前だ。
リンファスが納得して安心すると、ケイトは顔を曇らせて、いや、そうじゃないんだよ、と言いにくそうにした。

「……ケイトさん……?」

「……ハンナは『事情がある』って言ってたけど、あんたもしかして、親なしだったりしたかい?」

親なし……。とても悲しい響きに、どきりとした。
しかしリンファスにはファトマルが居た。母親はあいにく居なかったが、仕事もあってちゃんと寝る場所をもらえていた。
村で見かける仲の良さそうな親子とは違ったけれど、ファトマルは確かにリンファスの父親だ。

「……母は私が赤ん坊の頃に亡くなったそうですが、父は居ました」

リンファスがそう言うと、それにしては白い花もついてないのはおかしいねえ……、と思案気にした。

「あの……、白色の花って、どういうことですか? そういえば、談話室に居た女の子たちもみんな白色の花を付けていました。何か……、特別な花なんですか……?」

リンファスが問うと、ケイトは言いにくそうに口を開いた。