「……花乙女に労働を与えるなんて、聞いたことないねえ……。……でもあんたがそうしたいのなら、叶えてやるほうが良いんだろうねえ……」

ケイトは悩んだ様子で暫く考え込んだ後、ぽん、と手を叩いて、良いことを思いついたよ、と微笑んだ。

「花乙女は一日一回、アスナイヌトさまに寄進する花を摘むんだ。その花をアスナイヌトさまのところまで持って行ってくれないかい。
今まであたしがやってた仕事だ。
それならアスナイヌトさまの場所を教えればあんたにも出来そうだし、他の乙女たちの為にもなるだろう? どうだい? やるかい?」

仕事なら何でも嬉しいし、それが他の乙女たちの為になるなら、もっと嬉しい。
この仕事をすることで、さっきの少女たちにも此処に居ることを認めてもらえるかもしれない。そう思ってリンファスは綻ぶような笑みで、はい、と答えた。

「是非、やらせてください! まじめに働きます」

「あっはっは! 働きたいなんて言い出す花乙女は本当に初めてだ! あんた本当に変わった子だねえ!」

花乙女に見えなかろうと、変わって見えようと、そんなことは気にしていられない。
もう帰るところはないんだから、此処に居ることのできる理由が出来て良かった。ほっと安堵したリンファスの頭を、ケイトが撫でる。

「不思議な乙女だと思ってたけど、本当に不思議で変わった乙女だ。じゃあ、明日から頼めるかい? 最初はあたしがついて行こう。明後日からはあたしの旦那と行っとくれ」

「はい」

返事をしたら、ケイトの目が糸のようになって目じりに深いしわを刻んだ。リンファスは少しケイトに打ち解けた気分になって、気になっていたことを思い切って聞いてみることにした。

「あの……、聞いても良いでしょうか……?」

リンファスの問いに、ケイトは何だい? と応えた。

「ケイトさんは、花乙女なんですか……?」

ケイトは紫の瞳をして花を咲かせている。
でも、みつあみをした髪の毛がオレンジ色だ。花乙女ではないのだろうか?
リンファスの疑問を正しく聞き取ったケイトが簡単な子供の問いに答えるように教えてくれた。

「そうか、あんたは花乙女がどんなものかを知らないんだね。
……花乙女は唯一の相手と結ばれるために存在している。そして、その唯一の相手と結ばれると、その相手の瞳の色に染まるんだよ」

「染まる……」

意味が良く分からなかったリンファスは、ケイトの言葉をおうむ返しにした。ケイトは微笑みを深くする。

「そうだよ。この、あたしに付いている花は胡白色の芯をして、花びらがオレンジ色だろう? 
これはあたしの旦那の瞳の色だ。あたしの旦那はオレンジ色の虹彩に琥珀色の瞳をしている。
旦那の瞳はきれいだよ。明日にでも会わせてやるよ。
談話室に居た乙女たちについていた花も、全部彼女たちを想うイヴラの想いで咲いている。あの子たちもやがて、唯一となるイヴラと結ばれて、その身を一色に染めるよ。
その時には貧富の差も、身分の差も関係ない。国全体で花乙女とイヴラを祝福するんだ」

にっこりと……、穏やかでやさしい微笑みを浮かべるケイトは、多分アスナイヌトという女神のような笑みを浮かべている。そんな気がした。