「その子、花が付いてないじゃない」

そのひと言で、リンファスは理解した。此処でも、リンファスは仲間に入ることは出来ない。
髪や瞳の色が同じでも、ハンナが言ったような花乙女としての花が付いていないことで、リンファスは受け入れてもらえないのだ。

リンファスは少女が言ったように花なんて付いてない。
ハンナはリンファスのことを、国が大事にする花乙女だと喜んでくれたけど、現実として花は付いてない。花が咲いていなければ、花乙女だと証明することは出来ないんだろう。

此処は花乙女の宿舎だし、花乙女しか住んではいけない場所なのだ。それなのに、髪と瞳の色が一緒だからと言って、リンファスが仲間であるわけがなかった。

(私は……、何処に行っても一人なんだわ……)

いや、ウエルトの村では少なくともファトマルがリンファスを養ってくれていた。
ファトマルは、ハンナやロレシオが言うように不出来な親だったかもしれないけれど、でもリンファスを同じ家に住まわせて仕事を与えてくれた。
ファトマルは確かにリンファスの味方だったのだ。此処には……味方が居ない。

かくりと首を項垂れて、リンファスは黙った。その様子を見ていたハンナが慌てて口を開く。

「リンファスはちょっと特殊な事情の中で暮らしていたのよ、サラティアナ。それで花が咲いてないだけで、ここで暮らしていくうちにきっと花が咲くわ。だから一緒に住まわせてあげて頂戴。みんなも、お願い」

「此処に住まわせるかどうかは、ハンナたちが決めることなんでしょう? 私たちが口を出すことではないわ」

はっきりとした声でサラティアナと呼ばれた少女が言った。自分たちが決めることではない。つまり、同意して一緒に居ることを認めたわけではない……、ということだろう。

(……平気。村でも家の外では一人だったわ……。此処にはハンナさんが居るし、考えてみたら村と何が変わったわけでもないわ……)

ただ、居場所が変わっただけ。その中で今までの家でのような自分の場所を作ることをしなければならないけど、それだってさっきハンナが与えてくれた部屋があれば簡単だ。
リンファスはそう思い、彼女たちに一礼した。ハンナは最後に仲を取り持つようなことを言った。

「花乙女は本当に数が少なくて貴重な存在なのよ。上手くやっていって欲しいわ」

それは彼女たちにも、リンファスにも向けた言葉だった。サラティアナが、ふん、と腕を組んだ。