「緊張しないで。私たちは貴女を心から歓迎するわ。花乙女は愛されて幸せになる為に居るのよ」

「……しあわせ……」

ハンナは此処に来るまでの道中でも何度もそう言った。その度に幸せとはどういう意味だろうとリンファスは考えた。

ファトマルからも屋根のある家で過ごさせてもらった。
あの村で自分のような異端児を育てるのは大変だっただろうに、売り飛ばしもせずにリンファスに仕事をくれた。
あの生活を、不幸だったとは決して思えない。異端児のリンファスにとっては、生き永らえただけありがたかったのだ。

それなのに、『愛されて幸せに』とは、どういうことだろう。

(……愛される、って、どういうことだろう……)

リンファスが考えに耽ったのをどう解釈したのか、実際に乙女たちに会ってみると良いわ、と言って談話室に連れて行ってくれた。

宛がわれた部屋を出て、再び一階へ降りる。先程通って来た廊下を談話室まで戻ると、ハンナがドアを軽くノックした。

「ごきげんよう、皆さん。ちょっと良いかしら?」

ひょこりと顔をのぞかせたハンナに、部屋の中に居た人たちからどうぞ、と小鳥のような声が聞こえた。

「今日からまた新しくこの館に花乙女が加わることになったの。紹介するわ」

そう言ってハンナはリンファスの背に手を当てて、一緒に部屋の中に入ってくれた。リンファスがおずおずと一歩部屋の中に入ると、目の前には色の洪水が現れた。

洪水……否、其処には色や形が様々な花を身に着けた少女たちが居た。
色も形も全く違う花々を身に着けた少女たちは、そろって白い髪で紫の目をしていた。
……ウエルトの村で悪魔の子として後ろ指をさされたリンファスと同じ色の人たちが、此処では穏やかに微笑んでいる。そのことにまず衝撃を受けた。

「大陸の果ての方の村に居た子よ。リンファスというの。……リンファス、挨拶は出来るわね?」

ハンナに促されてはっとする。これから此処に居るのなら、この人たちに受け入れてもらわなければならない。
ウエルトの村では髪と目の色のことで差別されたが、この人たちは同じ色をしている。少なくとも見た目で差別されるようなことはないだろう。

だったら受け入れてもらえるかもしれない。そうしたら此処での生活が村での生活よりも、少しは暮らしやすいかもしれない。そう思って緊張しながらリンファスは口を開いた。

「……リンファス・フォルジェと……いいま、す……。あの、……」

よろしくお願いします。

そう言えなかったのは、少女たちの検分するような視線からだった。

口からは何の音も出てこなくなり、スカートをぎゅっと握った手は、細かく震えた。
ウエルトの村でも幼い頃から度々感じたこの感じ……。あまり、……多分、リンファスを好きになってくれない人から見られた時の感じと似ている……。

どきんどきんと心臓が鳴る。緊張から息が浅くなり、小さくひゅっと息を継いだ時、少女たちの中の一人――色とりどりの大きく咲き誇る花を着けた少女――がハンナに声を掛けた。