宰相・ベスチアンから得た情報だと、資産家たちの間では、今『ルルディア』と呼ばれる希少な(・・・)花を愛でることが流行りなのだそうだ。
『ルルディア』という花はグスタンに実在する、一本の茎に小さな三つの花が咲く花の品種だ。
もとは野生種で、その愛らしい姿で国民にも親しまれていた為、品種改良は古くから行われており、今では多種多様な『ルルディア』が市場に出回っている。
その新種の品評会のように見せかけた品評会が、地下で、闇取引が行われていたらしい。

『サーイラス』という海賊一派だけがもたらすその『ルルディア』の品評会が、まさに今日、海岸近くの別荘地で行われているとのことだった。

別荘の持ち主は、バチソン商会のクインナ・バチソン。バチソン商会の取り扱うコラリウム(真珠)はアディアでも有名な商品で、貴人たちに『海の涙』とも呼ばれている。
そのバチソンが、グスタンの資産家の中で一番の『ルルディア』持ちなのだそうだ。

(あのカーニバルで、コラリウムを選ばなかった僕の目は正しかった)

リンファスにこれ以上涙は似合わない。そう思ってコラリウムは贈る石の候補から外したのだ。

(リンファス……。僕の想いは届いているか……)

インタルでは花が咲いた花乙女とイヴラがこんな風に離れ離れになることはない。
こんなに離れてなお、想いが届いているのなら、今度こそリンファスを手に入れたい。ぐっと握りしめた手のひらを見つめて想いを馳せる。

「ロレシオ、裏が取れた! この下の小さな洞窟の入り口から蒼い花が流れ出て来ていた!」

ルドヴィックが洞窟の外へ流れ出ていたという言う花を見せてくれた。それは確かに蒼い花弁に蒼から銀のグラデーションの花芯をしていた。

「洞窟の前には物騒な男が一人立っていた。僕の姿を見られていたら時間の問題だ。仕掛けるなら早い方が良い」

「そうだな、アキム」

「ああ」

カチンと鞘を鳴らしてアキムが応える。

「こういう時こそ、正々堂々と正面から行くべきだな」

「異論はない」

「どうせ何方から行っても切り合いだ」

握ったこぶしを二人の前に差し出す。二人も突き出して、拳と拳を軽くぶつけた。

「最優先はリンファスの救出だ。グスタンの警察隊の世話になるのは首謀戦が終わってからだ。いいか、行くぞ」

「ああ」

「手早く片付けよう」

向かうは、バチソンの別荘邸。

リンファス、今度こそ。

(僕の想いを受け止めてくれ…………)