花乙女の子供はルシーア、少女はイリエネだと名乗った。
リンファスが船に載せられてから最初の朝に、兎に角逃げられる隙を探そう、と三人で話し合った。

オンガの話では、この船がこのままグスタンに入って『競り』に掛けられたらもう逃げ場はないことが分かる。
だから『競り』に掛けられる前に、誰か一人でも良いから、逃げ出そうとみんなで決めた。
逃げられた人が、その場所をその土地に居る誰かに教える。

そうしたらいくら他国の人でも、攫われてきた女の子を見逃しにしたりなんかしないだろう、というのがリンファスの考えだった。
それは花乙女を取り巻く本来の環境を知って来たリンファスが、そう思ったのだ。

グスタンで船が着く先は、多分『競り』が行われる場所に近い。
遠くまで移動させると、それだけ花が着いている花乙女が目立って移動することになる。
それでなくても人三人を秘密裏に運ぼうと言うのだ。運ぶ馬車にしろ、何にしろ、大袈裟になることこの上ない。
特にリンファスの花は落ち続けているから、足取りを追われない為にも早め決戦だろうというのが理由だ。


(何時……。何時、岸に着くの……)

リンファスは祈るような気持ちでドア越しの船員たちの声に耳を傾けていた。







その頃ハティの港では海兵隊の一隻にロレシオたちが乗り込んだところだった。既に王都からの応援もあって、海賊の残党は全て縄を掛けられていた。

ウオルフから書状も貰った。後の憂いがなくなり、ロレシオは海兵隊員の一隊と共に一路グスタンへ向かった。

「距離を詰められるか……? あっちは二日前には此処を出ている」

海兵隊の隊長にロレシオが問うと、難しいでしょうね、と返事が返って来た。

「ただ、先ぶれを出していますから、グスタン王との目通りには手間取らないと思います。殿下が王城へ向かわれている間に、此方でも地元警察隊と連携し、海賊船を探して乗員を調べましょう」

白髪の隊長から頼もしい言葉が出て、いくらか手が増えたと思った。
海賊船より海兵隊の船の方が速度も速い筈だから、せめて距離を半日差にして欲しかった。

リンファスが花を落としたままだとしたら、そうそうな事では移動させられない。落ちた花を片付けたりなどの手間がかかる筈だから、港の近場で決着をつけるだろう。
海に飛び込んで泳いでいきたい気持ちを抑えて、ロレシオはリンファスの無事を祈った。