王都へ帰る道はファトマルを探しながらではない分、馬に無理をさせて一日とちょっとで王城に帰った。
アキムとルドヴィックに待っていてもらい、ロレシオはイヴラとして館に召集されてから初めて王城に入った。

夜中にもかかわらず、ウオルフはロレシオに会ってくれた。『太陽の宮』の王の私室の続き間である部屋に入ると、夜着にガウン姿の国王と一対一で相まみえた。

『太陽の宮の碧の獅子』と言われたウオルフの碧の瞳が真っすぐにロレシオのグラデーションの瞳を見る。

「乙女一人に、お前が出向かなければならない理由がない。警備隊を出すから、お前たちは館に戻りなさい」

冷静な言葉で夜の空気を切ったウオルフがロレシオに言う。ロレシオはぐっとこぶしを握った。

「よく考えろ、ロレシオ。国民たった一人の為に、王家が動かなければならないか? 警備隊に話を通そう。それで済む話ではないのか」

「そうご判断されるのが普通でしょう。でも、行かせて下さい」

ロレシオは深く頭を下げた。早くしないと、リンファスが売られてしまう。オークションの先に行ってしまうと、また探さなければならない。

「立場を理解しての頼みなのか? そこまでして第二王子(おまえ)が行かなければならない理由はなんだ」

繰り返し理由を問うウオルフに、ロレシオははっきりと言った。

「リンファスは、私の花です。彼女以外に、花は要らない」

ひと言ひと言、区切って言う。ウオルフが、目を瞠った。

「……そこまで言うなら行けば良い。しかし言っておくが、ロレシオ」

ウオルフの言葉に頭を上げたロレシオに、ウオルフは突き刺さるような目で言った。

「国交問題に発展したら、いくらお前の花でも責任は逃れられない。……その時は、お前も一緒に責を負うのだぞ」

その言葉だけで十分だ。自分は絶対リンファスを取り戻すし、グスタンとも揉めない。

「ありがとうございます、父上……!」

ロレシオはもう一度頭を下げると、ウオルフの前を辞した。カーテンの隙間からカタリアナが現れる。

「ウオルフさま……」

「ははは、『月の宮』から直接宿舎に行ったままのロレシオが、正面門から帰ってくるとは思わなかったよ。……あれにあそこまで言わせた花乙女に、会ってみたいものだ」

ウオルフが振り向いた先のカタリアナが、目に涙を浮かべていた。

「ええ……。ええ、ええ、そうですね……。私もきっと、歓迎できると思います……」

どうか無事で……。

母・カタリアナの祈りは満月の月明かりに光った。