「それにイヴラと花乙女は、貧富の差や立場の違いで隔てられるものではない。歴代の王妃にも庶民の出の方は居る。そのことは君も知っているだろう?」

ロレシオの意志の強い瞳に、サラティアナは泣きそうな顔をする。

「そんなにあの子が良いの? 私と、何処が違うのよ……!」

ロレシオはサラティアナに向き合った。自分に言い聞かせるように、ロレシオは言った。

「僕に、新しい生をくれた人なんだ。大事にしたい」

「……っ!」

サラティアナはロレシオの言葉にぽろぽろと涙を零した。

「……私と向き合って話をしてくれるようになったのも、それでなの……?」

そう。幼いあの頃に受けた傷から立ち直れたから、サラティアナとも向き合うことが出来た。静かに頷くと、諦めたようにサラティアナが項垂れた。

「……リンファスは父親と一緒に居るわ……。あの子さえ居なければ、貴方がもう一度私を見てくれるんじゃないかと思って、暫く地元に帰っていてもらおうと思ったの……」

リンファスの父親と言えば、リンファスに白い花さえも咲かせなかった人だ。リンファスをどう扱うかもわかったものじゃない。
ロレシオはサラティアナに馬車を用意すると、自分は馬を借りた。

「リンファスを連れ戻しに行く。君は宿舎に帰れ」

駆けて行ったロレシオをサラティアナは見送った。自分の初恋はこれで終わるのだと、理解した。