今は舞踏会に行っても、ロレシオの口から彼のことを聞くことは出来ないのだろうか。だったら舞踏会に参加する意味もない。

そう思ったが、何度か茶話会に参加して、少し話をするイヴラも増えた。
『愛し愛される』間柄でもないロレシオの気持ちを少しでも信じられない今、花乙女の役割としてロレシオ以外のイヴラにも知ってもらって愛してもらわなければならない。
役割を分かっていて放棄するなんてことは、リンファスには出来なかった。

ロレシオからは前日に「明日、庭で会おう」という手紙が来た。
リンファスの贈り物を大切にしない一方で、リンファスに会いたい気持ち、というのはロレシオの中で成立するのだろうか。
リンファスだったらそんなことは出来ない。

それでも手紙が届いたことで約束は交わされてしまった。
会わないことを告げる手段は文字も書けず、またそれを代筆してもらう勇気も持てなかったリンファスにはなく、リンファスは結局、ロレシオの多弁の花を咲かせて舞踏会に参加した。

いつもと同じくプルネルと遅くに会場に着いたリンファスを待っていたのはサラティアナだった。

「平気な顔をしてその花を着けて来るのね」

いつも明朗な笑顔で居たサラティアナからの憎しみの視線を受けて、リンファスは怖気づいた。そんな目で見られる理由が分からなかった。

「花って……、この蒼い花のことですか?」

「そうよ。それはロレシオの花でしょう。貴女にその花は相応しくないわ」

相応しくないとはどういう意味だろう。

疑問に思っているとサラティアナは優雅にドレスを捌いてリンファスに近づき、ぱっと蒼い花を掴んでリンファスからむしり取った。
咄嗟のことに避けられなかったリンファスは、花がむしり取られたこと、そして散った花びらが舞い散る中で同じ場所から再び蒼い花が咲いたことに驚いた。
花をむしり取ったサラティアナも再び咲いた蒼い花に目を剝き、そして怒りの声を張り上げた。

「貴女なんてロレシオの素顔も知らないくせに! 花芯の色の意味を知らない貴女なんて相応しくないって、ロレシオも分かっている筈なのに!」

悔しそうに地団太を踏んだサラティアナは、青い花弁が散った床に背を向けて会場から出て行った。

(相応しくない……? 花芯の色の意味……?)

何のことだろう。
何かリンファスの知らないことがあるのだろうか。

確かにリンファスは貧しい村の娘で、ロレシオは仕草からしておそらく裕福な家の息子だ。
でも最初にインタルに来た時に、花乙女とイヴラには貧富の差も、身分の差も関係ないとケイトが言っていた筈だけど、そうではないことなんだろうか。

サラティアナが部屋から去って行ってしまった今、疑問をぶつける相手は約束をしたロレシオしか居なかった。
ハンカチーフのこともある。リンファスがロレシオに相応しくないから譲り渡したのだろうか。聞いてみたらロレシオはどう答えるのだろう……。

庭に出るとこの前ダンスを踊った場所まで来た。果たして庭の奥から何時も通りロレシオが姿を現した。

「リンファス……」

リンファスの名を呼ぶロレシオは嬉しそうだった。
この前の舞踏会で彼に疑問を感じる前までのロレシオだった。
リンファスには訳が分からなかった。ハンカチーフのこと。それからサラティアナのこと。

ロレシオがリンファスに歩み寄り、リンファスの長い髪をやさしい手つきで梳いた。いとおしそうに頬を包まれて、ますます混乱する。