度々断っているおかげで、サラティアナを花乙女の館からエスコートする必要がなかったのは良かった。
ロレシオはリンファスが贈ってくれたハンカチーフを胸に挿し、夜会に臨んだ。
会場では真意を裏に隠した会話が交わされる。
うんざりしながら付き合っていると、青いドレスを着たサラティアナがやって来た。
「リュクト王子のご婚約が決まったのね」
「まだ内々の話だ」
「貴方も急かされているんじゃなくて?」
ずいっとサラティアナがロレシオに寄り、蒼から銀のグラデーションの瞳が光る目を見つめてきた。
幼い頃から自信に満ちたままの紫の瞳を憎らしいと思う。
自分を裏切ったという意味でも、そしてどうしたらそんなに自信が持てるのかという意味でも。
「……僕は親族に厭われているから、そんなことはされない」
「王家の男子としての、責任はどうするのよ」
「放棄してはいないさ」
飲み物をテーブルに置いてその場を去ろうとすると、サラティアナが食い下がって、ロレシオの腕を取った。
「この前、館の門の前でリンファスと一緒に居る貴方を見かけたわ。どういうつもり? あの子は貧しい村の、何の教養もないような子よ」
「逆に、君に問いたいな。イヴラと花乙女は地位に縛られない理(ことわり)の筈だ。それを無視して、僕に立場を要求する理由はなんだ」
ロレシオの冷たい視線にも、サラティアナは負けない。
「立場なんて関係ないわ。貴方が良いのよ。最初に花をもらった時から、私には貴方だけだったわ」
仮にサラティアナの言葉が本当だとしても、その後ろにアンヴァ公爵が居る限り、サラティアナを好意的に見ることは出来ない。
それにロレシオの心はもう、リンファスに傾いてしまった。
「イヴラと花乙女は心に関して自由であるべきだ。君がそれだけ花を咲かせていながら自由に僕を選ぶように、僕もまた自由に心を決める」
「それがリンファスだと言うの?」
「答える義務はない」
「ロレシオ!」
言いおいてその場を去る。リンファスもサラティアナのように思ってくれたら良いのにと思いながら。