「ロレシオ……。花が……、花が……」

ほろりほろりと一枚ずつ花弁が解ける蒼い花の、重なった花びらが今までの花とは全然違う。
理由を問うリンファスに、ロレシオは破願した。

「ああ、リンファス! なんて素晴らしいんだ! 君を想う心が溢れて止まらないよ!」

ロレシオはそう言ってリンファスを抱き締めた。突然腕の中に抱かれてリンファスは驚いてしまう。

「君に花を捧げるために、僕は今まで孤独の道を歩んできたんだと思えるよ。僕は君を愛していることを、花で証明できた。そして君は、僕を受け入れてくれた唯一の味方だ!」

愛しているだって? この花が、愛された証拠の花?

「ロレシオ……、私を、愛して……、くれたの……?」

「そうだ。嫌かい?」

「嫌じゃないわ。でも……」

ハンナもケイトも言っていた。花乙女は『愛されて幸せに』なる為に居るのだと。
『愛されて幸せに』なったからこそ、ケイトにはハラントの花が咲き乱れている。
リンファスに咲いたロレシオの愛の花は三つだ。
リンファスはロレシオに愛されたけど、幸せになっていないのだろうか……? 
幸せじゃない? 何故?

その時、広間の方からわあっという声が聞こえた。
シャンデリアの灯りに照らされた、明るい場所。
月明かりの庭とは比べようもないくらいに賑やかな場所。

そうだ……。ロレシオがリンファスを誘う場所は、いつも暗い場所だった。

庭で二人きりのダンスも素敵だけど、以前ルドヴィックと広間で踊ったように、ロレシオと広間で踊れたらもっと嬉しい。
プルネルも花の贈り主を紹介して欲しいと言っていたから、ロレシオと会わせたい。

「ロレシオ、広間に行かない?」

「広間……?」

ロレシオの戸惑った声に、リンファスは気づかなかった。

「庭(ここ)でのダンスも素敵だけど、広間でみんなと一緒に踊ったら、カーニバルのダンスみたいに楽しいんじゃないかしら。
それに貴方のこと、プルネルにも紹介したいし」

ね。

そう言って腕を引こうとしたリンファスの手を、ロレシオは避けた。

「? ロレシオ?」

「すまない、リンファス。……広間には行けないんだ」

行けない? どういうことだろう。

「そうなの……? じゃあ、いつプルネルに貴方のことを紹介したら良いのかしら……。
あっ、次の茶話会には出てくる? 私、いつもプルネルと一緒に参加しているの。友達のアキムやルドヴィックも良くそこで話してて……」

「茶話会にも行かない。……いや、行けないんだ。リンファス、今日はこれで失礼するよ」

急に声を固くしたロレシオは、リンファスを抱擁から解いた。

「どうして広間も茶話会も駄目なの? そうしたら私は何時、プルネルに貴方のことを紹介できるの?」

「理由は言えないんだ。兎に角、ごめん。今日は失礼する」

ロレシオはそう言うとリンファスを庭に置き去りにして、足早に庭を去って行ってしまった。
ぽつんと一人庭に残されたリンファスは、さっきと今のロレシオの態度の違いをおかしいと感じた。

そして何より……。

広間に行けない、茶話会に行かない理由を、話してくれなかった。それが。

――――『僕も君と分かり合えるようにありのままで話そう』

そう言ってくれたはずのロレシオの言葉と違う。



(どうして……?)




リンファスがロレシオに疑念を持ったのは、これが初めてだった……。