「僕はね」

嬉しそうに話すロレシオの声が、鼓膜に響く。

「君とカーニバルで踊るの、楽しみにしていたんだ。……この前、野外音楽堂で楽しかったからね。君と踊るのは、楽しいよ」

楽しそうに先日の思い出を語るロレシオの声が、口許が、頬の引きあがり具合が、本当にリンファスと踊るのが楽しみだと言っていて、だからリンファスは、ロレシオの言葉がお世辞ではないという事が理解できた。

舞踏会会場で踊るワルツよりも、カーニバルのダンスの方が良いだなんて、寂れた村の人みたいだけど。でも。

それがリンファスと一緒だから楽しいのだと言ってくれたことを、リンファスはきちんと理解したから、こう言えた。

「……舞踏会で踊っても、きっと楽しいわ……。だって、友達だもの……」

リンファスの言葉にロレシオがゆるりと笑む。

「そうだね……。きっと場所は関係ない。君と……、君と一緒に踊ることが、僕にとっては重要みたいだ」

やがて中央の広場に着き、ロレシオに誘われて大きな炎を囲んで踊っている人たちに混ざった。

「レディ、お相手をお願いしても?」

「勿論よ、ロレシオ」

リンファスが差し出された手に手を乗せると、二人は周囲の人々に混ざって大きな炎を囲んでダンスを踊った。
簡単なステップと、ペアの相手とくるくる回って踊るだけのその踊りは、本当にリンファスがウエルトの村で見ていた収穫祭の踊りに似ていた。

浮き立つリズムに炎の灯り。
リンファスは飛んで跳ねて、スカートを翻して無邪気に踊った。
ロレシオも楽しそうに笑っていた。あの舞踏会会場とは比べ物にならないくらいに楽しい。
胸の内が満たされて、笑顔がこぼれて仕方がない。リンファスとロレシオは終始笑っていた。





「ああ、疲れた!」

踊りあかした後、リンファスは笑顔のままそう言った。ロレシオも笑顔だ。

「僕も、こんな風にステップを飛んで踊ったのは初めてだよ。
あの炎が燃え盛る様子は気分を高揚させるね。とても楽しくて僕も驚いてる。君と来られて良かったよ」

「ロレシオが楽しくて良かったわ」

会場を離れ、帰路に着く。
カーニバルは夜中までやっているが、花乙女はそんなに遅くまで外出していてはいけない。リンファスはロレシオに送ってもらって宿舎の前まで来た。

「ロレシオ。今日は誘ってくれて、本当にありがとう。私、あんなにいっぱいのテントを見たのは初めてだったわ」

「良かった。僕も楽しかったよ。また出掛けよう」

ロレシオの言葉に頷く。ロレシオがリンファスを見て、フードマントの内側から何かを取り出した。

「リンファス、これを……」

そう言ってロレシオは何かをリンファスの首にかけた。シャラ……、と音がして、リンファスは自分の首にかかった華奢な鎖を辿った。