それから大陸の各地から集められた布や釦、糸などを取り扱っているテントも見た。
美しい光沢をした糸は色の種類が豊富にあって、店主が、大陸の東の方から取り寄せた貴重な糸だと教えてくれた。
艶やかなその糸の内の青色の糸が、リンファスに着くロレシオの蒼い花の色に、とてもよく似ていて素晴らしいと思った。

「お嬢ちゃん、気に入ったかい?」

リンファスが熱心に糸を見ていたら、店主がそう聞いてきた。

「あんた、花乙女だろう。気に入ったんなら要るだけ持って行けばいい。花びらを一枚貰って、買った金額を付けた帳簿と一緒に役所に出すと、後で国から売上がもらえるんだ」

リンファスがドレスを仕立てた時は、花乙女が用立てする店は登録制で、だから花乙女に使った分の売り上げは国から出るんだと店主のルロワが言っていたが、市でも花乙女が買い物をする為の仕組みが作られているのだとは思わなかった。
リンファスは店主の言葉に甘えて、その糸の青と黄色を少し分けてもらった。

「君は裁縫もするのか」

ロレシオがそう聞いてきたので、村では何でもしたわ、と応えた。

「繕い物から屋根の修理まで、何でもやったわ。父さんと私が生活する為の全てのことをしていたもの」

「……君の手が荒れていた理由が分かるよ。少し良くなっているね。良いことだ」

ロレシオはそう言ってリンファスの指先を手に取って見た。宿舎の少女たちとはだいぶ違う指先だろうに、ロレシオは微笑んでそう言った。

「倒れた時から比べると、頬も少しふっくらしたかな。あの時の君は、本当にひどかった」

「ロレシオの花を食べられるからよ。貴方には感謝しなければならないわ」

「それを言ったら、僕だって同じだ。だからおあいこだよ」

笑って言うロレシオが嬉しくて、リンファスも笑った。

「そうね。貴方が花乙女だったら、私の瞳の色の花が咲いたのかしら」

以前、アキムがリンファスに言った謎かけだった。
あの時はアキムに即答できなかったけど、いまなら彼の言葉の意味が分かる。
リンファスがロレシオに友情を感じていることを伝えたいように、アキムもリンファスに友情を感じていると伝えたかったのだ。
リンファスがふふふと笑うと、ロレシオも微笑んだ。

「そうだね。全身紫の花だらけになって、君に見せてあげたかったよ」

想像するだけでおかしい光景に、二人で大きな口を開けて笑う。

その後も色々なテントを見て回った。あたたかそうな毛皮が並んでいたり、眩い宝石が並んでいたりもした。
美しく加工された宝石を並べているテントでは、店主の強引な勧めで店主自慢のアクセサリーだという品々を見ることになった。