「とりあえず、私が占えた事はここまでです。後は佐由良様自身で運命を切り開いて行くほかないでしょう」

「そう、分かったわ。有り難う伊差奈(いざな)、もう下がって良いわよ」

 伊差奈は黒日売(くろひめ)にそう言われた為、「では、これで失礼します」と言ってあっさり部屋を出て行った。

「これから大和で本当に何かあるのかも。それがここ吉備や海部まで影響が出ないと良いのだけれど」

 黒日売も少し伊差奈の占いが気になるようだった。

 また佐由良も同様に、さっきの伊差奈の話した内容を思い返して考えてみるも、いまいち理解しにくい。

「叔母様、私自身は海部を離れたくはない。でも、もしかしら大和に行くのが私の運命なんじゃ……」

 すると黒日売は佐由良に歩み寄り、彼女を頭を撫でた。それはまるで母が娘を慰めるかのように。

「そうね、貴方にとって故郷の海部を離れるのは本当に辛いことよ。
 ただ神々が佐由良の見方になって頂けるよう、私もお祈りさせて頂くわ。さぁ、もうだいぶ暗くなって来たから、佐由良あなたも家に戻りなさい」

 佐由良は涙を手で拭いた。

「そうね、余り長くいてしまうとまた奈木に何か言われそうだし」

 佐由良はすっと立ち上がり、そして黒日売の部屋を出ようとした。

「あ、佐由良ちょっと待って」

 黒日売は慌てて佐由良を呼び止めた。

「そう言えば佐由良に渡したい物があったのよ」

 そう言って彼女は部屋の隅に行き、何かを持って戻って来た。見るとかなり古い袋のようで、そこから中に入っている物を取り出した。

 佐由良が彼女の取り出したものを見ると、それは古い勾玉の首飾りだった。

「叔母様、これは?」

「これは麻日売(あさひめ)が亡くなる時持っていた物だそうよ」

「麻日売……お母様が!」

「ええ、彼女の世話に携わっていた者が持っていたみたいなの。ただどうして良いか分からず私の所に相談に来て、それでこの首飾りは今まで私が持っていたのよ」

 佐由良は、思わずその首飾りに見入った。見た目は古そうだが、中々物は良いみたいだ。

「世話の者に託すぐらいだから、とても大切なものだったのね。それで佐由良が大きくなったら渡そうと思っていたの」

 そう言って黒日売は、その首飾りを佐由良に渡した。