瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)、何とも大変な事になりましたね」
 
「どの村の女達も、皆とても怯えております。この宮にも沢山の娘が仕えてるので、油断が出来ません。何しろ狙われるのは皆若くて美しい娘ばかりとの事」

「特に采女の女達は、皆美しい娘ばかりなので、本当に心配ですね」

 ここ最近頻発している娘の誘拐事件について、瑞歯別皇子は家臣と共に話し合いをしていた。
 
「とりあえず、この宮を中心に周りの村への見張りを強化するよう言ってある。近辺の村は、その村の男達が交代で見るようだ」

(一体この誘拐の連中の目的は何なんだ。どこか遠くに連れて行って奴隷にでもするつもりか)  

 今までの誘拐の経緯から、娘が1人になった時を狙って誘拐されているようだ。であれば、まずは娘が1人にならないように行動する必要がある。

「でも今回は、皇子自らが率先してこの問題に取り組んでいるのは誠に素晴らしい。宮の女達もとても喜んでおられますよ」

 宮の家臣達は、今回の瑞歯別皇子の対応にとても驚いていた。政り事に関しては優秀だが、こんな問題にも直接1つ1つ動いているからだ。

「この宮の主として、また大王の弟としても当たり前の事をしているまでだ。何をそんなに驚く事か」

 瑞歯別皇子は少し呆れて感じで家臣にそう言った。彼からしてみれば至って普通に対応しているに過ぎない。

(それに、そうしないと宮の女達も安心して生活出来ないだろうに)

「いえいえ、そのお心遣いが大変素晴らしいのです。まるで先の大王のようだ」

 家臣達は瑞歯別皇子をとても尊敬の目で見ていた。

(誘拐された女達も、以前佐由良が襲われかけた時のような扱いを受けてなければ良いが)