大和の冬はとても寒く、雪もかなり降る為、人々は冬の間は余り出歩かない。  

 瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)のいる若宮にいた佐由良も、ひっそりと過ごしていた。 

 そして季節も3月に入り、やっと春が近づいて来た頃。


 佐由良が宮の中を歩いていると、宮の女達が数名集まって何やら話しをしていた。

「何かあったのかしら」
 
 その女達の中に、同じ采女(うねめ)伊久売(いくめ)がいたので彼女に話し掛けてみた。

「ねぇ、伊久売何かあったの?」

 伊久売は佐由良が来た事に気づき、彼女に駆け寄った。

「あぁー佐由良、ちょっと聞いてちょうだい!」

「一体どうしたの。何かあった?」

「それが最近、この付近の村で若い娘が次々行方不明になってるの」

「え、若い娘が」

 すると他の女達も寄ってきて、佐由良に話し掛けて来た。

「何でも、皆若くて綺麗な娘ばかりで、どこかの盗賊がさらって行ってるんじゃないかって言ってるわ。それでどの村も娘達が怯えてるらしく、この若宮も安心は出来ないわね」

 佐由良の生まれ育った吉備でも、度々海上で襲撃される事はあった。

(でも若い娘をさらって一体どうするつもりなのだろう。)

「やっぱりどこか遠い所に、奴隷として連れて行かれるんだわ」

 伊久売もかなり不安に思っているようで、体を少し震わせている。

「とりあえず、瑞歯別皇子の指示で見張りを強化するそうよ」

「あとは私達自身も出来るだけ1人にならないようにしましょう」

「本当そうよね」

 などと女達は言い合っていた。

(とりあえず、用心はしておかないと。)

 佐由良も他人事でないと思った。