「だいぶ寒くなって来ましたね。ねぇ皇子」

「あぁ、そうだな。今年は稲の収穫もしっかり取れたのが有り難い」

 瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)は家臣と政の話しをしていた。

「そう言えば黒媛様も懐妊されたそうで、時期的に大王とのお子なので、大王もとても喜んでおられました」

 黒媛は住吉仲皇子(すみのえのなかつおうじ)との事があったので、去来穂別大王(いざほわけのおおきみ)も急いで子供を授かりたいとは考えていなかった。ただ時期的に今回の妊娠は、住吉仲皇子との事が起きる前に授かってる為、大王の子供で間違いないとの事だった。

 黒媛自身も出産に向けて、前向きに考えだしたので、周りの者達も安心していた。

「皇子も大王から、早く妃を娶れと言われてるそうじゃないですか。その辺りはどうされるのですか?」

(またその話しか。その件なら兄上からさんざん言われている)

「別に急いでしなくても問題なかろう。ただ兄上が心配性なだけだ。まぁ自身の子供が生まれたら、さらに言って来るだろうがな」

「はぁーそうですか。まぁ皇子がそう言われるなら……」

(本当にどいつもこいつも。なぜ妃選びにこだわるのか理解出来ない。元の発端は兄上だが。住吉仲皇子の事があったからか、俺に早く落ち着いてもらいたいのかもしれん)

「ふぅー」と瑞歯別皇子はため息をついて、外を見た。
 これからどんどん寒くなっていく頃だ、冬の備えもして置かなければいけない。