瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)住吉仲皇子(すみのえのなかつおうじ)が元々いた宮に寄った。

 宮に使えているもの達は、皆集められていて、厳重に見張られていた。調べによると、今回の住吉仲皇子の反乱は、皇子が独断で起こしたもので、宮仕えの者達は知らされていなかったようだ。

 ただ皆とても怯えていた。女達の中には泣いてる者さえいた。

 その中には、吉備海部の娘佐由良もいた。

(住吉仲皇子、どうか無事に助かりますように)

 こんな事を願っているのがバレたら、自分も疑われて殺されてしまうかもしれない。でも心の中ではずっと祈っていた。


 瑞歯別皇子はふと佐由良を見た。吉備から来た娘の為、裏切り行為がない場合は命を断つ事はさせない。ただ噂によると、住吉仲皇子を慕っていたと聞く。

(まぁ、宮の女達の間ではよくある話だな)


 佐由良はふと人の視線に気が付いた。そして思わず振り向くと、その先には瑞歯別皇子が立っていた。

 皇子は自分と目があった為か、慌てて顔を背けた。

(どうして私の事見てたんだろう?)

 そんな彼の事が一瞬気にはなったが、今の彼女にはそれどころではない状況である。

(まぁ、今の私にはそんな事考えてる場合じゃないわね。)

 その時ふと思い出した。まだ自分が吉備にいた頃、大和に行かされる話を聞いたあの日。黒日売の元から家に戻る途中に見た不思議な光景の事だ。

 あの時見た光景の中にいた1人の少年。その少年が瑞歯別皇子に似ているように思えた。
(あの時も身なりの良い服を来ていたし、背格好も似ている……)

「でもまぁ、そこまで気にする事でもないわね」