住吉仲皇子(すみのえのなかつおうじ)の側近であった阿曇浜子(あずみのはまこ)の命令で、後を追った淡路の野島の海人らは、去来穂別皇子(いざほわけのおうじ)に捕らえられてしまった。

 また住吉仲皇子の味方にいた倭直吾子籠(やまとのあごこ)も、去来穂別の兵に恐れをなし、妹の日之媛(ひのひめ)を献上して許された。

 こうして、住吉仲皇子は孤立していった。


 その事を知った瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)は、住吉仲皇子近習の隼人である刺領巾(さしひれ)に近付いた。

「刺領巾、去来穂別皇子は住吉仲皇子を討つようにと仰せだ」

「やはり皇子はそのお考えか」

 刺領巾は自分もこのまま殺されてしまうのかと思った。

 だが瑞歯別皇子は、意外な提案を彼に持ちかけた。

「住吉仲皇子を討つのなら、彼の近場にいる者が殺すのが手っ取り早い。そこでお前に兄上を殺してもらいたい」

「私に住吉仲皇子を殺せと」

「さよう。さらに兄上を殺した暁には、お前を大臣にしてやってもよい。どうだ、お前にとっても悪くない話しだろう」

 刺領巾は無言で考えた。
 恐らく断れば今この場で自分は殺されてもおかしくない。であれば、この話しにのれば命が助かる上に、大臣の役にもつける……

「分かりました。住吉仲皇子は私が討ちましょう」

 刺領巾は自らが皇子を殺す事を、瑞歯別皇子に誓った。

「そうか、やってくれるか」

 瑞歯別皇子はそれを聞くと、出来るだけ早くに実行するよう伝えて、彼の側を離れた。


「住吉仲皇子、済まない。そうしなければ私が殺されてしまう」

 刺領巾は、今尚孤立している住吉仲皇子が哀れに思えて仕方なかった。